30年以上に渡って、場所を転々としながらも、その場所毎に大行列を生み出す「一条流がんこラーメン総本家」というラーメン屋があります。がんこラーメンのファンは、ラーメンそのものはもちろん、お店のあり方を指示する特徴を持ちます。なぜがんこラーメンは顧客から熱烈な指示を受けるのでしょうか?小さな企業が熱烈な指示を受ける術(すべ)を学びましょう。
ウン十年の間、熱烈なファンが行列を作る「一条流がんこラーメン総本家」
東京メトロ・丸ノ内線の四谷三丁目駅の4番出口を出て、徒歩で2〜3分ほど歩いた飲食店街のビル一階、奥まった一角で運営される伝説のラーメン店がある。
「一条流がんこラーメン総本家」である。
店を切り盛りされているのは御年70歳になられる、がんこ流の宗家・一条安雪さんだ。
筆者は先週末、 2000年初頭に大学へ通っていた頃以来10数年ぶりに、がんこラーメンを食べた。(その頃、一条さんは早稲田のお店にいらっしゃったので、筆者は頻繁に足を運んでいた。一条さんは自分のお店を出す場所を転々と変えることでも有名。)
日曜日の朝、開店直後の10時にも関わらずがんこラーメンの前には、30人以上の行列が並ぶ。
一時的に話題となる行列店はそこそこあっても、ウン十年の間、熱烈なファンが行列を作り続けるラーメン屋は東京でも数少ない。
一時間ほど並び、いざ入店。
がんこラーメン(スペシャル1,200円)の麺は相変わらず硬く、しょっぱいところも昔と一緒だが、全く覚えていない新しい味わいであり、とてつもなく美味かった。
この日の出汁は、なんと煮干しにホヤ貝を加えたもので、ホヤ貝のフルーティな香りと磯の旨味が口いっぱいに広がる。
うんうん、これだ。
店を出ると、まだ数十人のファンが並ぶ。この光景もあの頃のままだ。
さて、せっかくなので本稿は、「一条流がんこラーメン総本家」に学ぶ、小さな企業が熱烈な支持を受ける術を4つご紹介したいと思う。
一条流がんこラーメン総本家に学ぶ小さな企業が熱烈な支持を受ける4つの術(すべ)
1)継続して変化し続ける
がんこラーメンは常に変わり続けるお手本だ。
営業している途中でも、一条さんが「この時間帯から味が変わるよー。」と言い始めるのは日常茶飯事のことである。
通常のラーメン屋で味の変化は顧客にとって受け入れ難いことだが、がんこラーメンでは、その日毎に起きる味の変化を、顧客が好んで受け入れる文化が醸成されている。
なぜなら、一条さんとの信頼関係のもと、変化が顧客にとってプラスになると顧客自身が信じているからだ。
更にがんこラーメンは毎週日曜日に、その週ごとに違う素材を活用した出汁で、ラーメンを提供してくれる。
先週はたらこ、今週は本サザエとカニ、来週はホヤと、惜しげもなく様々な素材が使われ、同じ味を味わうことは二度と出来ない仕組みになっている。
常に変わり続けるため、顧客はお店に行く度に、新しいがんこラーメンと出会うことができるのだ。
小さな企業(店)はすぐに変われることが強みであり、変わり続けなければ顧客には飽きられてしまうことを、店主の一条さんは知っているのだろう。
2)一定ルールのもと顧客に選ばせ楽しませる
がんこラーメンのメニューには基本的にラーメン一種類しかないが、
- 自由が丘:清湯であっさりとしている
- 100:カエシを入れず出汁のみでコクがありあっさり
- 下品:醤油が入りコクが強くしょっぱい
- 悪魔:下品の権化のようなスープでとにかくしょっぱい
という一定ルールのもとで、味に独自設定が設けられている。
ファンはその日の気分や体調によって、味の設定を変える楽しみを与えられている。
同じ業界で言えば、ラーメン二郎の“ニンニクマシマシ”コールも、これと同じ顧客に楽しんで選ばせる独自のメニュー設定と言えよう。
選べることは、顧客の満足感を生み出す一つの要素である。
3)常に欠かさず情報を発信し続けている
一条さんは御年70歳になった今も、営業日には欠かさずブログで情報を発信し続けている。
毎日自らの言葉で、自らのパーソナリティ、ラーメンを作る過程、出来ごたえ、これらを余さず伝える。
「今日のは味は旨いが、カニの甘みが感じられない」などの、お店にとってはネガティブなコメントもブログでオープンにするのだ。
更に店舗でも一条さんは、情報を発信し続ける。
ラーメンの歴史、今日の素材の仕入れによる原価率、朝の仕込み時間帯の味と今の時間帯の味の違い、これらを惜しげもなく顧客に語り続ける。
一つ一つが顧客の脳裏に焼き付いて、やがて顧客はがんこラーメンのファンになっていく。
小さな企業は自ら情報発信しなければ、誰も見てくれない。
顧客からの熱烈な指示を受けたければ、一条さんを見習って今すぐ情報発信を始めよう。
若い私達は成功も失敗も含めて、もっと多くのことを顧客に伝えられるはずだ。
4)自らが商品の一番熱狂的なファン
ブログを見てもらえばわかると思うが、一条さんはとにかく自分の作るラーメンを愛している。
ある日のブログでは、一条さんがその日のあまりの出来栄えに、自ら2杯もラーメンを営業時間中に食べてしまうという珍事が報告されている。
一条さん自身が、自らが販売する商品の一番のファンなのだ。
入り口には「本当にラーメンが大好きな方 どうぞお入りください。」の文字が掲げられる
商品への愛が余りすぎて、自らの商品を称賛し紹介する形容詞は、ヒ◯ポン、マブシ◯ブ(混ぜ物無しの本シ◯ブ)など放送禁止用語が満載だ。(ちなみにヒ◯ポンとは限られた素材の出汁を極限まで純度高く抽出した下地スープのこと)
しかし、ここは小さなラーメン店。それくらい突き抜けても、警察が取り締まることは一切ないだろう。
それどころかファンは、彼のラーメン、そして彼の虜となるのだ。
私達は彼ほど自分の商品を愛し、その愛を表現できているだろうか?
自分や自分の商品を愛せていないなら、顧客のことを本当に思ったビジネスなど出来ない。
30年の実践継続はプロフェッショナルの流儀
- 変わり続けること
- 一定のルールで顧客に選択の楽しみを与えること
- 情報を発信し続ける
- 自らが商品の熱烈なファン
いずれも小さな企業が熱烈なファンを作る上で必至のことを、一条さんは愚直なまでに実行しています。
小さなラーメン屋だからチョコチョコできる?個人だから大胆なことができる?
いいえ、それは違うと思います。
私は一条さんが本物のビジネスマンだからこそ、30年以上もの間、これを継続できているのだと思います。
もしよければ、美味しいラーメンを食べるついでに、一条さんのファンの作り方を見に行ってみませんか?