通勤時間に起きた事故や災害で病傷沙汰となった場合、合理的なルートから外れた場合は労災補償を受けられません。しかし、これではあまりにも日常生活に支障が出るため、日常生活における最低限の行動で、一旦通勤ルートを離れても、再度そのルートに戻れば労災補償を受けられるという特例があります。日常生活における最低限の行動とはどのようなものでしょうか?
「通勤帰りにスーパー寄ったら通勤中の労災受けられない」は厳し過ぎる
先日「通勤途中でケガをした場合に労災保険の適用を100%受けるにはどうすれば良い?」という記事の中で、
- 1)通勤時間は通常だと業務時間の範囲とみなされず労災は原則的に適用されない
- 2)しかし通勤が合理的な経路と方法(交通手段)で行なわれる場合は労災の補償が受けられる
- 3)経路と方法が合理的な範囲から逸脱する場合は労災の補償が受けられなくなる
ということをお伝えしました。
特に、経路が通常の通勤経路から逸脱する場合は、逸脱した時点から災害などに遭遇しても労災保険の補償が無くなる、というのがポイントでした。
ただし、この逸脱をあまりに厳格化しすぎると、従業員の日常生活に支障が出てきてしまいます。
私達は誰もが退社後の帰りがけに、スーパーやドラッグストアに寄ったり、病院に寄ったり、銀行に寄ることがあるからです。
これら日常生活における最低限の行動まで規制しないと、通勤時間に起きる事故について労災保障が受けられないことを想像してみてください。
たとえば、熱が出て病院に寄りたくても、会社から一旦家に帰って、それからまた病院に行かねばならないとしたらどうでしょう?
正直、辛いですよね。
たとえ通勤ルートから外れても「日常生活における最低限の行動」であればOK
このような日常生活における最低限の行動を認めて、労災保険には一定の特例が設けられています。
特例は、日常生活における最低限の行動を行うために、合理的な経路から外れたならば、再び合理的な経路に戻った時には通勤とみなすことを認めています。
くどいですが、ここで注目したいのが、「日常生活における最低限の行動」ということです。
先述のスーパーやドラッグストアに寄ったり、病院に寄ったり、銀行に寄る、といった行為、これらは確かに日常最低限の行動といえますよね。
つまり、会社帰りに病院に寄る場合は、病院に寄るために合理的な経路から外れますから、病院から再び合理的な通勤経路に戻るまでは労災補償の対象となりませんが、合理的な経路に復してから災害などで病傷を被った場合は補償の対象となります。
では、映画館に寄る、ゴルフのレッスンに行く、友人との飲み会に参加する、という行為はどうでしょうか?
これらの行為は「日常生活における最低限の行動」とはみなせず、やはり「逸脱した」として、労災の補償を受けることはできません。
たとえ、ゴルフのレッスンが終わり、再び通勤経路に戻ったとしても、合理的な経路で通勤したとみなされません。
通勤における労災補償を受けられるか否かは、合理的な経路を辿っていたかについて、これらのことに注意する必要があります。
日常最低限の行動でもルートが外れすぎると労災補償が受けられない可能性あり
最後に「日常生活における最低限の行動」だったとしても、労災補償が受けられるわけではない場合についてお伝えします。
例えば、美容室に行くことも日常最低限の行動ですよね。
ただし、普段利用している美容院が合理的な通勤経路から離れていなければ良いのですが、合理的な経路から何キロも離れた美容室に行った場合は、「逸脱した」とみなされて労災補償の対象外となる場合があるのです。
- 1)職場は東京駅で自宅は目黒駅
- 2)普段は一人暮らしの「目黒駅⇔東京駅」区間を往復
- 3)美容室は千葉駅(実家)近くにある馴染みの店を利用
という場合は、普段は山手線内の「目黒駅⇔東京駅」区間を利用しますよね。
ところが通勤帰りに上記区間を大幅に逸脱し、県も越境して美容室に向かうことになれば、場合によっては労災補償が適用されない可能性があるのです。
同じように銀行に行くときも、目的が現金の引き出しや公共料金の支払い等であれば良いのですが、日常生活とは言えない行為、例えば高額な金融商品の購入等である場合には「日常生活における最低限の行動」として認められない可能性もあります。
個々のケースで判断されるため、一概に線引きする事はできません。
しかし、労災保険の補償範囲は、あくまで客観的に考えて「日常生活における最低限の行動」という概念を前提に成り立つ、ということをご理解いただければと思います。