医療費の控除制度として医療費控除があるのに、なぜ今年から新たにセルフメディケーション税制が導入されたのか?医療費控除とセルフメディケーション税制の違いは何?セルフメディケーション税制にまつわる基本的な知識を本稿で効率的におさらいしましょう。FPの赤井さんが解説してくださいます。
セルフメディケーション税制が導入されたワケ
2017年1月から対象となる利用者枠が拡大された個人型確定拠出年金、通称【iDeCo】。
先日の記事で書いた通り、普段節税が認められないサラリーマンでも、掛け金分が所得控除になったり運用益が非課税になるなど、その節税部分に注目が集まっています。
国としては、多少の税収を犠牲にしても国民には年金を補う「自助努力」をしてほしい、というのが本音ですが、同じくこの1月に「節税させてあげるから、自分でなんとかしてチョーダイ」というもう一つの制度がスタートしました。
それがセルフメディケーション税制です。
年金同様、待ったなしの「国民医療費」の問題。今や40兆円を超えた医療費は、毎年直線的に増加しています。
これもiDeCo同様、税制優遇するので、この国民医療費を何とか下げてほしい、というのが制度創設の意図です。
さて、医療費に関する税制優遇というと、今までも「医療費控除」がありましたが、今回のセルフメディケーションは、従来の医療費控除とは何が違うのでしょうか。
ここからは、医療費控除とセルフメディケーションの違いをご紹介します。
医療費控除のキホン概要をおさらいしてみよう
まずは、医療費控除から見ていきましょう。
1年間でかかった医療費が10万円を超えた時、その超えた部分が所得から引ける、という制度です。(所得が200万円未満の人は所得の5%を超えた部分)
押さえたいのは、
- 1)本人だけでなく、生計が同じなら親族単位で申告できる
- 2)大部屋が空いていない際の個室差額ベット代など、健康保険適用外の部分も合算対象となる(個人都合は除く)
- 3)出産関係では多くの項目が合算対象となる
- 4)病院だけでなく、介護老人福祉施設などでの支払も対象となる
- 5)薬局で購入した風邪薬、花粉症の薬、ケガをしたときの絆創膏なども対象
- 6)民間の医療保険給付金などで補てんされた金額は差し引く
という6つのポイントです。
1)の親族は、扶養家族かは問われません。共働きの夫婦の場合でも、合算すれば控除対象になる可能性はあります。また仕送りしている別居中の親も合算対象です。
2)の差額ベット代は健康保険の対象外ですが、「医師の指示」「空きがなかったため」という場合は、控除対象になります。
3)の出産費用は、通常分娩費用でも控除対象。また緊急で利用したタクシー代は、高速代も含めて控除対象になります。
また出産以外でも、先進医療やレーシックなどの保険外治療でも、治療目的なら控除対象となります。
その他にも意外なものが控除対象になっていたりするので、所属している健康保険組合や税務署に確認してください。
6)の医療保険ですが、医療費総額から差し引くのではないことに注意が必要です。たとえば、
- 入院して窓口で支払った医療費が7万円
- その入院により受取った民間保険金が15万円
- その入院以外でかかった医療費12万円
この年の医療費控除は7万円+12万円-15万円-10万円→マイナスで、受けられない…は間違いです。
この場合、入院費は保険金でまかなえているのでゼロとしてカウントされますが、それ以外の12万円が控除対象。つまり12万円-10万円=2万円が控除額となります。
セルフメディケーション税制と医療費控除の違い
対して、セルフメディケーションは医療費控除の特例であり、平成29年1月1日~平成33年12月31日の5年間、毎年利用できます。
医療費控除とは異なり、10万円を超えなくても、対象となるOTC医薬品の年間購入額が12,000円を超えた場合、その超えた部分が確定申告することによって控除を受けられる制度です。
このOTC医薬品とは、 医療用から転用された特定の医薬品のことで、対象となる医薬品は厚生労働省のウェブサイトから見ることができます。
サイトを見ていただければわかるように、必ず一家に一つは置いてありそうな、一般的な薬品もたくさん対象になっていますね。
この制度は誰でも利用できるわけではなく、一定の条件を満たす必要があります。
それは、
- 所得税、住民税を納めている。
- 1年間(1~12月)に健康の維持増進および疾病の予防への取組を行っている。(特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康診断、がん検診)
という条件です。
また確定申告時には、対象となるOTC医薬品だという記載のあるレシートを提出しなければなりません。
別に領収書をもらった場合には、その旨薬局に記載してもらわなければなりません。
苦労してレシートを集めて税務署まで行ったけど、認められなかった…とならないよう気をつけましょう。
医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できない
OTC医薬品購入以外にも入院などがあり、合計10万円を超えた場合は、従来の医療費控除を受けたほうが節税効果が高い可能性があります。
FPとしてよくご相談を受けるのは、やはり出産関係。
妊娠、出産の可能性が高い年なのであれば、その年は医療費控除を受けられる可能性が高くなります。
年初から薬局での風邪薬やケガの絆創膏代などでも、きちんとレシートをとっておくといいかもしれません。
どちらの制度を選ぶにしても、うまく使って少しでも所得税還付・住民税減税につなげたいですね。