サービス開始からわずか7年で全国に1400店舗を構えるようになった、ニコニコレンタカー。同社の圧倒的差別化要因は、「12時間税込み2,525円から車を貸し出す」という驚きのコストパフォマンスにあります。これを実現するために同社は、大手競合がやっている2つのことを敢えて行いません。成熟社会ではこのようなリバースポジショニング戦略が、差別化に有効となります。
貴方が差別化している商品やサービスは、他社と似たり寄ったりなサービスになっていないか?
ハーバード大学教授のセオドア・レビット(以下、レビット)が「マーケティング論」を発表して以来、私達はこれまで半世紀に渡り、「ビジネスの世界では差別化に成功することこそが、競争力の源泉となる。」と教わってきました。
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彼の言葉に習い、私達は常に顧客の満足度をあげるため、既存の商品に新しい機能や新しい選択肢を提供し続け、差別化を図ってきました。
ところが、商品の差別化施策を延々と続けた結果、今あるものに何かを付け加えることが、かえって差別化ではなく、同質化をもたらしてしまうことも増えています。
たとえば、洗濯洗剤のコーナーには、様々な洗浄機能が追加された洗剤が所狭しと並んでいますが、これを買い求める消費者のいったい何割が、各社の訴求する「差別化要因」を把握しているでしょうか?
おそらく、ほどんどの消費者が「だいたいどこも同じ商品だから、CMで見た商品が安ければ買う」と考える程度でしょう。
しかし、中小企業が同じように、顧客から一見理解されにくい差別化を行い、それを明らかにするために膨大な広告費用を投じるのは、とてもリスキーなことです。
このように不毛な差別化競争を避け、中小企業が差別化ブランドを作るうえでは、「他社が行う業界の常識的サービスを敢えて行わず、顧客が予想もしなかったところで驚きのサービスを提供する」という節約スタイルの差別化が有効です。
成熟した業界で差別化ポジショニングを取らなければならない場合は、特にそう言えるでしょう。
これに成功している企業として、今日はレンタカー業界で成長著しい「ニコニコレンタカー」をご紹介しようと思います。
大手がやることをやらず節約を実現し、圧倒的差別化に成功する「ニコニコレンタカー」
ニコニコレンタカーは、株式会社レンタスが運営するレンタカーサービスですが、成熟したレンタカー業界ではかなりの後発組であり、その業界参入は2009年と最近のことです。
にも関わらず、店舗は全国で1,400箇所まで拡大しており、一ヶ月に10店舗以上のペースで今も拡大を続けています。
この急拡大を支える圧倒的な差別化要因は、「12時間税込み2,525円から車を貸し出す」という驚愕のコストパフォマンスにあります。
レンタカー業界は価格競争の非常に激しい業界ですが、この価格は通常相場を大きく下回り、一歩抜きん出た差別化要因となっています。
どのようにして、ニコニコレンタカーはこの圧倒的なコストパフォマンス(差別化要因)を実現しているのでしょうか?
以下、その理由をご紹介しましょう。
新車ではなく中古車を貸し出して節約
ニコニコレンタカーが圧倒的な低価格でサービスを提供出来ている理由の1つ目は、新車ではなく中古車を提供していることにあります。
対して、大手レンタカー会社は、メーカーから新車を納品されているため、高額な新車取得費用を消費者価格に転嫁しなければなりません。
「クルマを利用したい人が、利用したい時だけ、低料金で利用できるサービス」として差別化するために、新車の乗り心地(多くの場合は感情的な問題)を提供することを敢えて捨てたのです。
その代わり、車に求められる継続的で適切なメンテナンスを行うことで、消費者の理解を得ています。
出店時の初期投資コストを限りなく小さくして節約
ニコニコレンタカーの店舗は、あっと驚く場所に併設されている場合が多いものです。
例えば、ガソリンスタンドや車両整備工業など車関連事業者が運営している店舗に、多くのニコニコレンタカー店舗は併設されています。
こうすることにより、ニコニコレンタカーは、店舗や駐車場、スタッフやメンテナンス機能など、車関連事業者がもともと持ち合わせているインフラを無駄なく利用することに成功。
運営コストを極限まで下げることを実現しています。
大手レンタカー会社が新しい店舗を出店する際に設備を全て新規で用意し、人員を雇用したり投入するコストをかけるのに対して、ニコニコレンタカーは敢えてこれを行わず、差別化されたサービスを提供できているのです。
飽食の時代だからこそ有効な「リバースポジショニング戦略」
このように成熟した市場では、満足しすぎている顧客に対してサービスを付加するのでは無く、むしろ逆を行き、無駄なサービス・機能を削ぎ落とす形の差別化戦略を取ることが、一つの有効な手段となります。
日本のような成熟社会では特に、業界標準のサービス・機能を簡素化しても、ある面で突き抜けたサービスがあれば、顧客が簡素化に理解を示し、便益を喜んで享受してくれるほうが多くなります。
このような差別化戦略は「リバースポジショニング戦略」と呼ばれ、これに基づいて生まれる差別化ブランドは「リバースブランド」と呼ばれます。※
たとえば、ボロボロな居酒屋や定食屋で、配膳は自分で行わされ、勘定も自分で行わねばならない、店のおやじさんは無愛想、だけども出て来る料理はどれも美味しい、という理由で流行っているお店に皆さんは心当たりありませんか?
そのようなお店に来る顧客は大抵、「店はボロボロだけど味は旨いんだよな」「頑固おやじは接客しないけれど料理は最高に上手なんだよね」と、敢えて提供されない(削ぎ落とされた)サービスに納得しながらも、便益を喜んで享受します。
全ての面で優れてはおらず、むしろバランスは悪いが、ある面において突出したサービスは、差別化が同質化しやすい飽食時代の消費者にとって新鮮に映るものです。
航空業界のLCC、セルフ配膳のうどんチェーン、セルフピック・セルフキャリーのIKEAなどが、同じ考え方を元に成長していることは言うまでもありません。