ある社員が致命的ではないにせよ問題を起こした場合、懲戒処分として減給を言い渡すことがあるかもしれません。ただし、減給には労働基準法で制限がかかっているため、就業規則における記載はもちろん、減給自体も適正に行わねば、かえって会社が訴えられることになり、注意が必要です。
労働基準法で制限を設けられている減給
従業員が不祥事を起こしたり、就業規則の服務規程に反する行為を行った場合、会社が懲戒処分を行うことがあるでしょう。
懲戒処分で最も重い措置は、懲戒解雇です。
しかし「懲戒解雇ではあまりに厳しすぎる」というケースも当然あることでしょう。
「仕事はちゃんとやっているけれど、夜な夜な飲み歩いて、無断欠勤をたまにする」というような場合です。
ですから、就業規則には、「懲戒解雇」より軽い「懲戒処分」も同時に記載する必要があります。
懲戒処分の具体措置で代表的なものと言えば、
- ・始末書の提出
- ・減給
- ・降格
- ・出勤停止
があります。
例えば、社員に始末書を提出させることにしたとしましょう。
この時、始末書のページ数や、始末書の形式、提出期限などは法律に拘束されることがありません。
降格も、「専務が平社員になる」などしても、何一つ違法性は生まれません。
出勤停止日数も、1週間なのか1ヶ月なのか、その期限は会社が決めても良いものです。
ところが、懲戒処分の中でも「減給」だけは、法律の制限がかかるため注意が必要です。
労働基準法で厳しく定められた1回あたりの減給額
労働基準法では、1回の減給処分で会社の裁量を以下のように制限しています。
- 最初の減給額:平均賃金の半分まで
- 減給が複数回に及ぶ場合の減給幅:1ヶ月の給料総額の10分1まで
平均賃金については説明が少し複雑になるので、詳しい解説は割愛させていただきますが、イメージとしては1日分の給料と思っていただければ
良いでしょう。
懲戒処分を言い渡された社員の1ヶ月間の給料が30万円とすると、1日の日給は約1万円となります。
例えば、ある社員が問題を起こしたので、減給処分を行おうとした場合、減給できる上限金額は、1日分の給料である1万円の半額、5,000円が上限となります。
この従業員が、また別の問題を起こし、再び減給処分を行う場合にも、5,000円が上限となります。
では、この従業員が問題を起こし続けた場合、永遠に5,000円を減給し続けれるかというと、そうもいきません。
もう1つの制限「減給処分が複数回に及ぶ場合には、1回の給料総額の10分1までが限度」だからです。
減給処分が複数回に及んだ場合でも、1回の給料総額の10分の1、先述の例で言えば30万円の10分の1にあたる、3万円が減給総額の上限となってしまいます。
つまり、減給処分を行うことができるのは、6回(5,000円×6回=30,000円)までで、仮に7回目の問題を起こしても、もう、減給処分は出来ないことになるのです。
同じ問題を起こす社員ほど厄介な者はいない
このように減給については、労働基準法で定めがありますので、その範囲内での措置を就業規則に記載する必要があります。
また、現実的に考えてみると、6回も同じ問題を起こす社員には、更に厳しい措置を取らざるを得ないことでしょう。
どんなに仲間を信じていても、会社はやはり人の集合体ですから、懲戒処分については事前の想定を行うことが肝要です。