ビール業界第六位のヤッホーブルーイングは、リアル・ネットを問わず泥臭いコミュニケーションを行い、熱狂的なファンを獲得してきました。ロイヤリティマーケティングによりブランドを作るために大事なのは、仕組みやシステムではなく、「きずな」を生み出す心のこもったコミュニケーションです。
気づけばビール業界第六位・よなよなエールのヤッホーブルーイング
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
「軽井沢高原ビール」や「よなよなエール」で知られるクラフトビールメーカー、ヤッホーブルーイング。
近年も、「インドの青鬼」、「水曜日のネコ」など、ユニークな名称、印象的なパッケージデザインの新製品を次々と投入し、熱狂的なファンを生み出しています。
そんなヤッホーブルーイングはいまや、ビール大手4社、オリオンビールに次ぐビール業界第6位の地位を占めるまでになっています。(正確な売上は非公開)
今回は、ヤッホーブルーイングのマーケティングをご紹介しましょう。
特筆すべきヤッホーブルーイングのロイヤリティマーケティング
同社は1996年に設立され、翌1997年に軽井沢高原ビール、よなよなエールを発売。
90年代後半の地ビールブームに乗って急成長しましたが、地ビールブームの終焉と共に、同社も1999年をピークとして8年連続赤字という苦境を経験します。
しかし、現代表取締役社長の出井直行氏が、2004年より本腰を入れて取り組んだ楽天のネット通販が業績回復の契機となり、その後、出井氏の体を張ったPRや、斬新なマーケティング展開により再び成長軌道に乗っています。
これまでの波乱万丈な同社の物語は様々な形で取り上げられてますね。
オンラインメディアの記事でも読むことができますし、井出社長の最新著作『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』でも、詳細に裏話・秘話が語られていて大変面白いです。興味のあるかたはぜひお読みになってください。
ヤッホーブルーイングのマーケティング活動において特筆すべきは「ロイヤルティマーケティング(Loyalty Marketing)」です。
「ロイヤルティマーケティング」は、既存顧客との良好な関係性の形成や強化を、長期的な視点で行う「CRM(Customer Relationship Management)」に含まれるコミュニケーション施策です。
ロイヤルティマーケティングのわかりやすい施策は「ポイントプログラム」ですね。
ポイントプログラムの場合、ポイントカードの発行やポイントシステムの導入などが主体となり、「人」があまり関わらない施策になります。
対して、ヤッホーブルーイングの場合は、出井社長をはじめとする同社スタッフが積極的に関わる、良い意味で「泥臭い施策」が中心になっています。
ヤッホーブルーイングがファン層別に仕掛けた数々の泥臭い施策
では、まずは顧客のセグメントから。
ヤッホーブルーイングでは、顧客を以下の4区分に分けています。
- ・伝道師
- ・熱意をもった中級ファン
- ・初級ファン
- ・ファン予備軍
そして、上記4区分のそれぞれに対してプログラムを実施してきています。
同社のビールを積極的に他社に推奨してくれる「伝道師」に向けての施策には、長野県佐久市の醸造所で行った「本気(マジ)仕込み」があります。
これは、抽選で選ばれた方数名に「1日醸造士」を体験してもらうもの。
座学からスタートして麦汁絞り、仕込み、テイスティングまで行い、出来上がったビールは実際に販売するというものでした。(2010年~2012年にかけて合計6回実施。現在は休止中)
中級ファン向けにはヤッホーブルーイングをより身近に感じてもらうため、「大人の醸造所見学ツアー」を毎年8月~10月の土日祝日を中心に実施しています。
初級ファンに対しては、都内の飲食店での飲み放題やクイズ大会などを行う「宴(うたげ)」を開催。都内4カ所にある公式ビアバル「YONA YONA BEER WORKS」が会場です。
そして、ファン予備軍に対しては、「オンライン飲み会」を開催。
「オンライン飲み会」とは、よなよなエール醸造所 ヤッホーブルーイングの公式Facebookページにて、日時を決めてそれぞれ自宅で同社ビールを飲みつつ、投稿しあうというもの。
直近では、9月15日(木)21:00~21:30に「よなよナイト#よなよなエールで月見酒しナイト」が実施されています。
また、全顧客を対象とする大イベントとして2015年より「超宴(うたげ)」も開催されています。
年1回、5月下旬に北軽井沢のキャンプ場で500名以上のファンが集まり、ビールを飲みながら交流を図るイベントです。
今年2016年に第2回目が開催されましたが、やはり大盛り上がりだったようです。
ブランドはコミュニケーションによって生まれ強化される
以上、ヤッホーブルーイングのロイヤルティマーケティングは泥臭く地道な施策が中心です。
しかし、本来、ブランドとお客様との「きずな」は、仕組みやシステムではなく、ブランドを支える社員さんとファンとの直接、あるいはメールなどを通じたコミュニケーションによって生まれ、強化されていくものだと私は思います。
多くの企業が導入しているポイントプログラムは、しょせんは金銭的な報酬に過ぎず、心理的なつながり感=きずなを生み出すことはできません。
ヤッホーブルーイングのロイヤルティマーケティングにはたくさんの学びがあります。
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