不正改造の“脱獄”iPhoneをインターネットオークションで販売したとして、商標権侵害の容疑で24歳の男性が逮捕されました。商標の原則は、権利者のみが商標を使用でき、他社は使用できないことにあります。つまり、原則に照らせば、第三者による新品販売も中古販売も、本来は商標権侵害になるはずです。しかし、これらの取引は商標権侵害となりません。脱獄iPhone販売との違いを解説します。
脱獄iPhoneを販売し商標権侵害で逮捕!なぜ?
9月末に「脱獄」という商標には馴染みのないキーワードで、商標権侵害の事件が報道されました。
搭載されているiOSをゲームで不正利用できるよう改造した“脱獄”iPhoneを、インターネットオークションで販売したとして、商標権侵害の容疑で24歳の男性が逮捕された事件です。
「不正利用できるよう改造すること」が、インターネットでは「脱獄」というスラングで表されています。
しかし、今回の報道を一見しただけでは、どうして脱獄iPhoneが商標権を侵害するのか、とても分かりにくいことでしょう。
もともとiPhoneに付いていたアップル社の商標をそのままの状態で販売したのに、なぜ勝手に使用することになるのか?という疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
この点、商標法は、
- (1)他社の商標を商品に付す行為
- (2)他社の商標が付されている商品を販売する行為
の2つの行為が、他社の商標を使用する行為であると定めています。
今回の事件は、(2)に該当します。すなわち、アップル社の商標が付されているiPhoneを販売した行為が、アップル社の商標権を侵害するとされたものです。
とはいえ、他社の商標が付されている商品を販売する行為は「至る所」で行われています。
例えば、ヤ◯ダ電機さんが新品iPhoneを販売することは「他社商標のついた商品を販売すること」になりますし、ブッ◯オフさんが中古iPhoneを販売することも「他社商標のついた商品を販売すること」になります。
そこで本稿は、「他社の商標が付された商品を販売する行為が、どこからが侵害でどこまでが侵害でないのか」について、混乱しないよう丁寧に説明していきます。
他社の商標が勝手に使えないのは「品質保証機能」を守るため
商標登録を受けている他社の商標は、勝手に使用することができないのが原則です。
他社の商標を自社の商品に付することは認められませんし、先ほどの(2)「他社の商標が付されている商品を販売する行為」のように、他社の商標が付されている商品を勝手に販売することもできません。
このような権利が認められている理由は、
「商標は権利者が使用して初めて商標の機能を発揮するものであり、権利者以外の第三者が商標を勝手に使用すると、権利者が大切にしている商標の機能が損なわれてしまうからである。」
というものです。
ここで、商標の機能のなかに「品質保証機能」という重要な機能があります。
「品質保証機能」とは、権利者が商品について保証している品質が、商品本体において確保されていることを保証する機能のことです。この機能によって、商標をみた消費者は、商品を買うかどうかを決める際に商品の品質を確認することができます。
iPhoneの場合、アップル社の商標をみた消費者が「iPhoneなら、こういう性能でこういう機能が付いているよね。」と認識させる機能になります。
商品や商標がそのままだから新品販売は商標権侵害にはならない
ところが、この原則でいけば、iPhoneを仕入れて販売する小売業者(例えばヤ◯ダ電機さん)は、アップル社の商標権を侵害していることになってしまいます。
商標を使用しているのが、メーカーではなく小売業者だからです。
しかし、そうはなっていないのが現実です。
これを理解するには、先ほどの「品質保証機能」に着目する必要があります。
iPhoneを仕入れて販売する小売業者は、iPhoneを未開封のまま仕入れた状態で販売します。
ですので、小売業者が販売するiPhoneを買った消費者は、アップル社が保証している品質(性能や機能)が確保されていると認識するし、実際に買った商品もその品質になっているので、何ら問題はありません。
このような場合は、商標の「品質保証機能」が損なわれないといいます。
「品質保証機能」が損なわれていないのだから、小売業者の販売は実質的に、アップル社が商標を使用しているのと同じであると考え、商標権侵害にはなりません。
中古品のiPhoneはなぜ商標権侵害とならない?
それでは、中古品の販売は商標権侵害とはならないのでしょうか?
例えば、ブッ◯オフさんの中古iPhone販売です。
中古品は、他社の商標がそのまま付されて販売されるものです。
品質の点でいえば、「新品に対して消費者が認識する品質」と「中古品の品質」は当然異なるので、商標権侵害ではないかという意見もあります。
しかし、中古品も新品同様に、商標権侵害にはならないとされています。
使用による劣化や経年劣化により品質が新品と異なっていることを、消費者が理解した上で購入しているので、品質に誤解が生じないと考えられるためです。
ただし、これはあくまで境界線であって、例えば、消費者が割り引いて認識する品質を下回るほど、改造や修理が施された商品を販売する場合は、商標権侵害になる可能性があります。
改造品の脱獄iPhoneが商標権侵害の対象となった理由
それでは、今回の事件のように、iPhoneを改造した場合はどうでしょうか。
容疑者が販売する改造iPhoneを買った消費者は、アップル社が保証している品質(性能や機能)が確保されていると認識するのに対し、実際に買った商品の品質がそうでなかった場合はどうでしょうか。
品質に誤解が生じる場合、商標の「品質保証機能」が損なわるおそれがあります。
このような場合、アップル社が商標を使用しているのと同じであると考えることはできないので、原則に立ち返って、商標権侵害になるというわけです。
過去に似たような事件がありました。
ファミコンを連射可能に改造して販売した業者が、商標権侵害で訴えられた事件です。
その裁判では、任天堂が改造ファミコンについて責任を負うことができないのに、任天堂の商標が付されていると、商標の「品質保証機能」が害されるおそれがあり、商標権の侵害であると判断されています。
今回の事件は、これに近い事例であることから、逮捕につながったのではないかと考えます。