大塚家具の2016年上半期決算が、売り上げ20%ダウン、営業損益マイナス転落と、散々な結果に終わりました。急ブレーキの大きな要因はラグジュアリーブランドでありながら、カジュアル路線に軸を置いたポジショニングにあります。二者を両立させるポジショニングは存在せず、早急なブランド価値向上に向けた施策の実施が、久美子氏に求められています。
大塚家具の業績が悪化:路線転換は功を奏さず
世間をあれだけ騒がせたお家騒動後の大塚家具が苦しんでいます。2016年1〜6月期の売上は前年比20%ダウン、営業損益もマイナスに転落しています。
創業者の大塚勝久氏と委任状争いまで繰り広げた上で、社長に就任した長女の久美子氏はこれまでの高級路線から決別して、カジュアル路線に転換すると宣言しましたが、現時点ではその路線転換が必ずしもうまくいっていないようです。
私事ですが、私は以前、大塚家具で頻繁に家具を購入していた時代があります。
入口で受付をすると担当の方がついてくれて、色々と説明しながら店内を回ってくれて、なぜそれだけの値付けになっているのか、この家具はどこがいいのかということをしっかり説明してくれるのです。
営業トークにのせられて、ついつい予算よりも少し高いものを買ってしまうということはありましたが、それこそが大塚家具の強みであったはずです。
IKEAやニトリなどの顧客が勝手に見て回るスタイルとは真逆のアプローチですが、これが大塚家具が高級家具屋と認識される所以でもあり、大塚家具でしか家具を買わないという人がいる理由です。
高級マンションなどが完成すると、その駐車場には必ず大塚家具のトラックがとまっていたものです。
大塚家具のブランドを作り上げたものとは?
ものには適正な値段というものがあると私は思っています。確かに大塚家具が取り扱う家具は値段は高いのですが、それなりの機能と耐久性を備えたものばかりでした。
ちょっとオシャレに見えるだけの家具とは素材や作る職人のこだわりまで比べものにならないのです。
安くてカジュアルな家具はすぐに壊れるものですが、大塚家具が売っているような家具にはそういうことはありません。
値段に見合った価値がきちんとあるのです。
もちろん、それなりの値段がするので万人向けのお店ではありませんが、きちんとした知識をもった担当者がいて、その説明を聞いて顧客は納得してその値段を払ってきました。
確かな品質と知識を持った担当者の存在が、大塚家具のブランド価値を高めていたのです。
カジュアル路線とブランドの両立は極めて困難
確かに、近年の大塚家具は業績が落ちていたかもしれません。
それは、高級路線が間違っていたというよりも、対象となる顧客の絶対数が減っているにも関わらず、新規顧客を獲得するためのマーケティング施策が旧態依然としていたに過ぎない話です。
創業者による昔ながらのアナログな顧客開拓術が、時代の流れから少しずつ乖離していたのは事実ですが、これがブランド価値を下げたわけではありません。
本来、ブランドとはラグジュアリーなものであり、カジュアル路線のブランドなど机上の空論に過ぎません。
あのCOACHですら、この路線を狙って本来のブランド価値を毀損し、大きく業績を落としました。大塚家具も同じです。
大塚家具はラグジュアリーブランドのお店であったはずです。
IKEAやニトリに行く人は間違っても行ってはいけない、というよりも、大塚家具としてもそういう人に来てもらっては困るのです。
二兎を追う者一兎を得ず:ブランド回帰への施策実施が久美子氏に求められる
これまでの高級家具の店というイメージで培ってきたブランドを維持したまま、カジュアル路線に転換するのは不可能なことです。
今までの顧客は間違いない離れるでしょうし、かといってIKEAやニトリで満足していた層が大塚家具に行くとも思えません。
机上でポジショニングマップを作っていると、ラグジュアリーブランドなのに手が届きやすいというポジショニングがポッカリと空いているように見えたかもしれません。
しかし、そのポジションは空いていたのではなく、そもそも存在しません。
ラグジュアリーブランドは手が届きにくく、かつ、値段に見合った品質とサービスを提供するからこそ、そのポジションにいるのであり、カジュアルなものは手軽でいつでも手に入るからこそ、そのポジションに位置することが可能なのです。
これらはトレードオフであり、両方とも手に入れようというのは愚の骨頂です。
勝久氏の路線のままずっと行けばいいわけでもなかったとは思いますが、久美子氏の路線転換はこれまで大塚家具の顧客離れを招くばかりで、今後もうまくいかないことが予想されます。
久美子氏がこの失敗から、自社の本当の強みに再度目を向けることを願っています。
Photo credit: hirohama via VisualHunt.com / CC BY