昭和シェルとの合併を推し進める出光興産の経営陣に対して、大株主である創業家の人々が異議を唱えています。報道機関の論調は、「騒動の元凶は創業家のわがままにある」というものが主体となっています。しかし、今回の騒動を株主のリスクという観点から客観視すると、創業家の主張が単なるわがままに見えなくなるかもしれません。
出光創業家の合併反対は単にわがままなのか?
出光の創業家が、経営陣が押し進める昭和シェルとの合併に反対している件について、意見の相違が鮮明になっています。
8月9日には、経営陣が創業家の意見書に対して、合併の経緯に関する見解の違いを、記者会見によって明確に示しました。
これら一連の流れを受け、経済誌や新聞による論調の多くは、創業家による合併への反対が、「単なるわがままにしか見えない」というものに傾いています。
大株主が経営判断に異を唱える背景にあるもの
マスコミの報道だけを見ていると確かに、合併への反対意見は創業家のわがままとも取れるかもしれませんが、実のところは誰にも分かりません。
組織風土というものは、内部の人間にしか分かりませんし、組織風土を一番理解しているのは創業家のはずです。
また、合併反対の判断が創業家の単なるわがままで、間違ったものであったとして、私達には留意しておくべき点があります。
それは、創業家が出光興産の33.9%に及ぶ株式を保有する大株主であり、将来、出光の価値が毀損した場合に、一番損をするのが創業家だという事実です。
確かに、働いて売上や利益をあげていく社員の意見はとても重要で、軽視すべきものではありません。
しかし、その売上や利益といった結果によって生じる損得は、最終的には株主に回ってきます。
従って、彼らも単なるわがままで意思決定するとは思えないのです。
もし、この先に自分たちが損をすることがわかっていて、今回合併に反対するのであれば、「彼らの中で何かそれだけ守らなければならないものがある」と考えることもできるのではないでしょうか。
オーナーと従業員で大きく変わるリスクの範囲
オーナーは意思決定のミスで下手をすると際限なく損をします。対して従業員(経営陣)の責任範囲は、最悪「辞任」で済みます。
言い方は厳しいですが、辞めれば従業員はその後に責を負う必要がありません。
オーナーと従業員では、取っているリスクが違いすぎることを認識した上で、創業家が納得する形で対話を進めていかなければ、いつまでたってもこの問題は解決しないでしょう。
翻って私達が投資家の目線に立った時に、保有しようとする企業の株式について、創業一族が多くの株を持っている場合、こういった騒動が起きうる、ということを知って投資判断を行う必要があります。
企業投資を考えている場合は、ぜひ企業の株主構成に注目してみてください。
Photo credit: sabamiso via Visual Hunt / CC BY