Pokémon GOが日本中に起こした大ヒット旋風
アメリカを中心に世界中で社会現象を巻き起こしているPokémon GOが、先週末、日本でも遂にリリースされました。
任天堂の株価が高騰していることに加え、リリース前から注意喚起が出たり、店舗がポケモンジムになる日本マクドナルドの株も上昇するなど、その影響はゲームに留まらず、今後も色んなところに波及していくことでしょう。
ポケモンことポケットモンスターは、1996年に任天堂からゲームボーイ用ソフトとして発売され、当時の小学生を中心に大ヒット。
その後も継続的に続編が発売され、アニメ化、グッズ化などとともに世界中で人気を集めています。
ポケモンのすごいところは、ゲームというよりも、そのモンスターたちの愛らしいルックスやキャラクターが幅広い世代で支持されていることです。
ゲームをやったことがなくても、ピカチュウを知らない人はほとんどいないでしょう。
Pokémon GOのバックグラウンドにある20年の歴史
ポケモンは、そのキャラクターライセンスを管理する会社として、株式会社ポケモンがあるというのも、他のゲームにはない非常にユニークな点です。
ライセンスビジネスも積極的に展開しており、JR東日本が毎年実施するポケモンラリーは、首都圏では毎年の夏の風物詩のようになっています。
最近では妖怪ウォッチが大ヒットしましたが、ポケモンと比べるとまだまだ歴史が浅いと言わざるをえません。
Pokémon GOの世界的な大ヒットは、ポケモンがこの20年間で、世界中の人々を魅了し続けてきた結果だと言えるでしょう。
さて、Pokémon GOはなぜ爆発的にヒットしたのでしょうか。
前述の通りポケモンそのものの知名度が非常に高かった、ということももちろん要因としてはありますが、もう少し深い分析をしてみると、以下の2つの要素が見えてきます。
成功要因1:先駆の大ヒットゲーム・Ingressのデータをフル活用
Pokémon GOの開発会社は、GoogleからスピンアウトしたNiantic(ナイアンティック)というアメリカのベンチャー企業です。
ちなみにNianticの創業者は、地図アプリのスタンダードになったGoogleマップやストリートビューを担当したジョン・ハンケです。
地図アプリ開発に培ったノウハウを十二分に活用し、世界的にヒットしたIngressというゲームを作ったのがこのNianticです。
Ingress:ゲーム画面
Ingressは、リアル世界の地図とリンクしたポータル上で、各地のランドマークを2つの勢力に分かれて取り合う、いわゆる位置ゲー的な陣取りゲームです。
この手のゲームは、昔からあるにはありました。
しかし、Googleマップのノウハウをフル活用し、リアル世界とリンクした位置ゲーであるIngressは、ARゲーム(拡張現実ゲーム)の最先端として一線を画したものであり、あっという間に1,400万人のプレイヤーが世界中でプレイするまでになりました。(2015年末時点)
Pokémon GOでは、このIngressのポータルの情報が、ほとんどそのままポケスポットやジムの情報として活用されています。
位置情報を使ったゲームでは、どこにスポットを設定するか、スポットにどのような機能を持たせるかがカギとなるわけですが、ある程度Ingressにおける検証が終わった状態で、Pokémon GOをリリースできたことが、Nianticに勝機をもたらしました。
Pokémon GOがあっという間に世界中の人々を魅了したのは、その位置情報の精度やゲームの完成度の高さにあると思いますが、そこにはIngressというゲームで培ったノウハウがふんだんに活用されているのです。
まさにIngressを大ヒットさせた、Nianticにしか作れないゲームが、Pokémon GOなのです。
成功要因2:ポケモンの世界観をとことん再現
任天堂と株式会社ポケモンの2社は、2015年にNianticに出資しています。
今考えればPokémon GOを作るために、この2社が出資したものだと分かるのですが、当時は色々な憶測が飛び交いました。
この2社が出資をしてがっつりと開発に関わることで、そのゲームの世界観やルールというものは格段に洗練されるはずです。
確かにポケモンというゲームはRPGの要素も持っていますが、やはりメインは「いかにたくさんのポケモンを集めるか」というコレクター要素も持ち合わせています。
世界中に散らばるポケモンを見つけ出し捕まえる、捕まえたポケモンを育てて戦わせる、経験値をためてポケモンを進化させていく、といったポケモンが本来持っている世界観を忠実に再現しているのが、Pokémon GOなのです。
私たちは子供の頃RPGをプレイしながら、「こんな魔法が使えたら」「勇者だったら」ということを考えたことがあるはずです。
それと同じように「実際に街中にポケモンがいたら」を実現したのが、Pokémon GOなのです。ポケモンが持つ世界観を一切壊すことなく、そこにIngressで培った位置ゲーとARの要素を掛け合わせています。
単なる位置ゲーやARというキーワードでは、Pokémon GOの大ヒットを説明することはできません。
任天堂や株式会社ポケモンが開発に深く関わり、ポケモンの世界観を忠実に再現したからこそ、ポケモンに熱狂してきた世代はPokémon GOを支持したのです。
Pokémon GOのビジネスモデルはセカンドライフのそれと同じ
ここまではPokémon GOの大ヒットの要因を見てきましたが、今後このゲームは店舗ビジネスのマーケティング活動そのものを大きく変える可能性を秘めています。
アメリカでもまだリリースされて1週間程度しか経過していませんので、この大ヒットが一過性のブームに過ぎないのか、しっかりと定着し店舗ビジネスのマーケティングの主戦場になるのかは、正直なところ未知数です。
しかし、これまでの位置情報を活用したサービスが、単なるチェックイン回数や口コミを集めるだけだったのに対して、Pokémon GOはそのどちらでもないアプローチで位置情報をフル活用しています。
日本マクドナルドはすでにPokémon GOと提携して、各店舗をポケスポットやジムにするということを発表していますが、広告的にPokémon Goにスポットやアイテムを出してくる企業は、これからも増えるでしょう。
ゲーム課金だけでなく、これら企業のマーケティング支援も、Pokémon GOのマネタイズで、大きなポイントとなることが予想されます。
さて、今後のPokémon GOで予想されるキャッシュポイントの構想、皆さんはどこかで見たことがありませんか?
そうです。実はこのビジネスモデルは、2000年代の半ばに日本では電通まで巻き込んで旋風を起こした、セカンドライフがやろうとして失敗したことに酷似しています。
AR(拡張世界)ビジネス構想は10年以上前にセカンドライフで生み出されていた
構想が同じでも、サービスを打ち出すタイミング、マーケットの熟成度、絡む人やコンテンツで、ビジネスが成功するか否かは、大きく変わります。
セカンドライフやIngressが実現できなかった「もう一つの現実世界におけるマーケティング」が、このPokémon GOによって1つの成功例を生み出すかもしれません。
今後の打ち手が非常に楽しみなゲームであり、ブームがいつまで続くのかが非常に注目されるところです。
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