中小企業の経営者は、大企業の中にいれば「エースで4番」と呼ばれるような人材ばかりです。ところが、プレイヤーとして優れているがゆえに、会社の最前線に立ち続け、会社の成長が頭打ちになる例も後を絶ちません。何でも自分でやってしまう経営者は、野球で言えば、監督なのに年間143試合に投手としてフル登板しようとする人と同じかもしれません。
プレイヤーから抜け出せぬ経営者に共通の口癖
中小企業の経営者の方々というのは、基本的にはプレイヤーとしても一流の優秀な人ばかりです。
大企業の中にいれば「エースで4番」と呼ばれるような人材が、「これなら自分だけでできる」という思いから独立されるケースも多いことでしょう。
起業当初は、自らが現場の最前線に立ち、お金を持ってくることに長けている必要がありますが、企業を飛躍させることを考え始めた時には、どこかでプレイヤーから一線を退かねばなりません。
しかし、プレイヤーとして優秀なこと、プレイヤーでいるのが好きなことが仇(あだ)となり、何でも自分でやるが故に、ある一定の規模以上にスケールしなかったり、後発の企業に市場を奪われる例は後を絶ちません。
そして、これら自らがプレイヤーであり続ける経営者の方々が必ず口にされるセリフに、「自分でやった方が早い」というものがあります。
自分でやる限りそれ以上を理解するのは難しい
「自分でやったほうが早い」という言葉には、部下の能力不足を嘆く意識が、深層心理に存在しているのかもしれません。
しかし、このセリフが出るような経営者のもとでは、企業の成長が一定規模で必ず頭打ちになってしまいます。
企業を成長させるための一番のボトルネックは、経営者の意識に他なりません。
組織論や競争戦略、マーケティングももちろん重要なのですが、経営者の意識改革なくして企業の成長はないのです。
「自分でやった方が早い」という気持ちは確かによく分かります。
しかし、そういう意識であらゆることに口を出したり、最後は自分が現場に出ていって解決するようなことを繰り返している限り、企業の規模は”あなたが把握できる範囲”以上には絶対になりません。
そうなってしまう理由は、部分最適と全体最適の問題です。
一生モグラを叩くのか?それともモグラが出ない仕組みを作るか?
局所的に見れば、その仕事は”優秀な”プレイヤーであるあなたがやった方が早いでしょうし、結果も必ずついてくるでしょう。
しかし、法人の経営者は、もはや個人事業主ではありません。
目先の仕事をひたすらこなしていれば良かった時代は、とっくの昔に過ぎ去り、今や従業員の生活はもちろん、取引先のビジネスにもきちんと責任を持たなければならない立場にあります。
目の前の問題に対処することによって、本来は将来のビジネスの種まきや、組織作りに割く時間が奪われることになるのです。
人間は2つのことを同時にこなすことができません。
時間の使い方というのは、あっちをやればこっちができないという、トレードオフの関係に必ずなっています。
モグラ叩きのように、部分最適で手当たり次第に手を出すことで、目先の問題は解決するかもしれませんが、すぐにまた別の問題が起こります。
経営者にとって本当に専念すべき仕事は、全体最適として「問題が起こらない仕組み」や「部下が自分で問題を解決することが出来る仕組み」を整えることなのです。
一生モグラ叩きを続けるのか、それともその穴から二度とモグラが出てこない仕組みを作るのか、どちらが経営者として会社を飛躍させるかは、言うまでもありません。
何でも自分でやる経営者は年間143試合全てにピッチャーとして登板したがる監督と同じ
同じことを表す例えとして、プロスポーツの世界の「名選手は名監督にあらず」という格言を、皆さんもご存知のことでしょう。
プロスポーツの監督は、実際には自分でプレイすることはできません。
一流プレイヤーであった選手が、監督として上手く行かないのをよく見かけますが、大抵のパターンは共通しています。
自らが過去に成功した型を、全く個性の違う選手達に押しつけてしまい、部分最適しか達成できず、全体最適を達成できないのです。
多くの中小企業の経営者が抱えている問題も、似たようなものです。
経営学の世界でも、部分最適や近視眼として昔からテーマになってきた問題ですが、優秀なプレイヤーであった経営者ほど、指揮官として上手く行かないのは、プレイングとマネジメントの違いを理解していないことに起因しています。
極端な話ですが、自分で何でもやろうとする経営者は、自らの立場を考えず、年間143試合全てにピッチャーとして登板したがる監督のようなものです。
たとえフルイニング出場ではなく、リリーフピッチャーとしてであっても、全試合登板しようとすれば、1年と身体がもたないでしょうし、指揮官を失った選手間に生まれるのは、混沌とした状態だけです。
同じように、目の前で起こっている問題はもちろん解決しなければなりませんが、毎回自分が登場しては、やがて本当に自らが解決しなければならない大きな問題が来た時に、それを解決する体力が残されていないでしょう。
どんなに優れたサービスや製品を持っていたとしても、それらが大きく羽ばたくために一番のネックになるのは、経営者のマネジメントに対する強いプロ意識であり、これを強く念頭に置いて経営に臨むことが、企業を飛躍させる上で重要な鍵となります。