弁護士の方々は法律の専門家ではあるものの、税金についてはそんなに詳しくない方が多いのも事実です。ところが民法で争う問題の殆どは「お金が絡むトラブル」です。お金が絡むトラブルを解決する過程で、お金が動いた場合、そこで税金が発生する場面が多々あります。ところがこれを見落とすと大トラブルに。そこで、弁護士さんが絡んだ、税金トラブルになりやすい案件を3つご紹介します。
税務に詳しくない弁護士が起こす税金トラブル
私は以前勤務していた税理士法人で、大規模の弁護士事務所を担当していた関係もあり、今でも弁護士の方と仕事をする機会が多いです。
確かに、弁護士の先生は法律の専門家ではあるのですが、税金についてはそんなに詳しくない方が多いんですよね。
どうしても和解や調停などの法律的な手続きが先行してしまって、後になって思わぬ課税関係が出てきてしまうことも良くあるのです。
なぜなら、法律的な解決には「お金が動くこと」が多いから。
それではどういう時に問題が起こりやすいのでしょうか?弁護士案件で多い「税金のトラブル」を本日は考えてみたいと思います。
相談で多いのは「離婚」「破産」「相続」
弁護士からの相談事項で多いのは、離婚、破産、相続の3つです。
実際に弁護士が取り扱う相談事例でも、この3つがかなり多いようですね。
いずれも最終的にはお金で解決することが多いのですが、「お金が動く」ということは「税金が発生する原因になる」ことが多いのです。
それぞれの事案別にご紹介します。
ケース1:離婚という問題
離婚の場面でお金が動く代表的なケースは、慰謝料の問題です。
基本的に慰謝料というものは、精神的な苦痛などに対する損害賠償と考えられます。
この損害賠償という性質のお金は「対価が無い=利益ではない」ということで、基本的には税金の対象とはならないのです。
受け取る慰謝料が法外な金額であれば別ですが、きちんとした適正な金額であれば税金は発生しません。
実は、問題になるのは慰謝料を支払う側の方なんです。
「お金を支払うんだから税金なんて関係ないでしょ?」
と思われる方も多いかもしれませんが、思わぬところで税金が発生してしまうことがあるんですよ。
慰謝料について、お金で支払う場合は良いのですが、問題になるのは慰謝料の代わりに住んでいる家を妻に引き渡すケースです。
税金の考え方は「金銭で行われる」と考えるのが原則なのです。
ですので、実際は慰謝料の代わりに家を引き渡しているのですが、税金的にはその行為を次のように分解して考えます。
- ① いったん家を売却したものとみなす。
- ② 売却して得られたであろう金銭を慰謝料として支払ったとみなす。
- ③ 妻は取得した慰謝料で家を取得したとみなす。
ここで①の「家を売却するという行為」が問題になります。所得税の譲渡所得というものに該当してしまうのです。
このように実際には売却(譲渡)していないのに、売却したようにみなして課税する取引を、税務的には「みなし譲渡(課税)」と呼びます。
離婚を担当する弁護士さんも、お金が実際に動くわけでは無いので、つい見落としてしまうポイントです。
ただ、住んでいた自宅(居住用)を売却した場合には、「居住用資産の譲渡の特別控除」などの税制上の特例もあります。
正しく申告すれば税額が出ないことも多いので、あらかじめ分かっていれば対応することは可能です。
まぁ、旦那が家を出て別居期間が長くなったりすると、この特例が使えなくなってしまうケースもあるのですが…。(-_-;)
ケース2;破産という問題
破産の場合の代表的なケースは「保証債務の履行」です。
保証債務の履行・・・? あまりピンと来ないと思いますので、例をあげてみましょう。
例えば、会社が金融機関から借り入れをしていたとします。
金融機関から借り入れをする時には大抵、代表取締役である社長が連帯保証人となるケースが殆どです。
会社の業績が悪化してしまい、いよいよ破産(倒産)しなければならないとなった時、金融機関は連帯保証人である社長に対して、借入の返済を要求してきます。
社長は借入の返済をするために、自分の持っている土地や建物を売却してお金を作り、金融機関に返済をしなければなりません。
ケース1の離婚の時と同じように、通常であれば土地建物を売った時には、譲渡所得税というものがかかります。
ただ、今回のケースのように、自分自身の借金(債務)ではなく、会社など第三者の借金(債務)の保証をしていたためにやむなく売却をした場合には、建物などの不動産を売却して出た利益に、所得税を課さないという特例があります。
弁護士さんでもこの特例を知っている人は多いのですが、実はこの特例を受けるためにはいくつか必要な条件があります。
単に借金を支払うために不動産を売ったと言う事実だけで、「この特例が使える」というカタチで処理してしまう弁護士さんも多いのですよ 。
後になって「えっ!使えないの?」とトラブルになるケースも、かなり発生しているようですから、注意が必要ですね。
ケース3:相続という問題
相続の場合で例をあげるとすれば、「遺産分割協議のやり直し」です。
民法上は、遺産の分割協議(誰がどの財産を取得するか決めるコト)が決まった後でも、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議をやり直すことが可能です。
その場合、民法上では相続の開始の時点にさかのぼって、再分割されたものとみなされます。
ただ、税務的には違うのです。
いったん相続人の間で合意がされた遺産分割協議については、よほど内容に誤り(瑕疵)がある場合をのぞいて、最初の遺産分割協議が有効なものとして取り扱われます。
つまり、相続の開始の時点に遡って、再分割されたものとみなされないのです。
このような場合、税務上は当初の分割は有効となりますから、やり直して再分割をした場合には、その時点で再び贈与税が発生してしまうのです!
つまり、ひとつの行為について2回税金を払わなければなりません。
「民法上は大丈夫だから」といってやり直してしまうと、ダブルで税金がかかってしまうのですよ。
このあたりも、相続に詳しくない弁護士だと起きてしまうトラブルの一つです。
「お金や財産が動く=税金の対象となる」の式
本日は、税務に詳しくない弁護士とのトラブルについて、代表的なケースを紹介しましたが、弁護士が絡んだ案件でさまざまな課税上のトラブルが生じることがあります。
「お金や財産が動く=税金の対象となる」
というのは、ある意味ひとつの方程式として覚えておいた方が良いです。
弁護士の方は、法律に基づいてオールマイティに幅広く業務ができますが、その反面、税金などの特定の分野に詳しい方はそんなに多くはありません。
もし、弁護士に相談した際にお金が動くようなケースがある時は「税金は大丈夫ですか?」と確認しておいた方が良いかもしれませんね。
特に大きな財産が移転する時には、税金の問題が生じるケースも多いので、事前に税理士にも相談いただければ無駄なトラブルが防げますよ!