多くの経営者が試用期間に慣例として行い、小さな「得」をして大きな「損」を被っている行動があります。それは、「使用期間終了後の社会保険加入」です。確かに試用期間はお見合い期間とも取れますし、試用期間中に労働者が辞めるリスクを考えれば、一見オトクです。しかしウラには見えない大きな損が迫っています。労務のプロが解説します。
社会保険で小さな得と大きな損してませんか?
「小さな得は、大きな損」という言葉をご存知でしょうか?
目先の利益に走るばかり、実は大きな損失を被っている、といった趣旨ですが、これは多くの会社の労務管理で行われている実情です。
その最たるものが、試用期間終了後の社会保険加入という慣例です。
「うちの会社では、試用期間が終わってから、社会保険に加入させている」これは、よく色んな社長さんから聞く言葉ですね。
実はこれ、全く根拠がありませんし、会社にとっては損となります。
試用期間でも社会保険加入は法的な義務である
まず最初に、ご存知かもしれませんが、社会保険について用語の説明をさせていただきます。
冒頭に出てきた、「社会保険」ですが、これは、健康保険と厚生年金保険を併せた総称です。
ちなみに、労働保険とは、労災保険と雇用保険を併せた総称のことを言います。
社会保険は、福利厚生面からみて非常に重要な制度です。
労働者が、就職活動をする場合には、社会保険の加入状況を重要視する労働者が多いと聞きますが、その反面、社会保険の保険料の負担は、会社にとってかなりの負担であることも事実です。
社会保険に加入する場合、たとえ1日だけ加入して退社してしまったとしても、1ヶ月分の保険料が必要となってきます。
会社としてはすぐに辞められてしまったら、保険料が無駄となってしまうので試用期間が終わり、ある程度雇用の見込みが付いた時点で労働者を社会保険に加入させるケースが多いようです。
確かに、私の顧問先でも、このような対応をされようとする社長さんがいらっしゃいます。
ところが、社会保険の規定では、加入の条件を満たしている場合には、入社日から加入しなければならないとされています。
つまり、「試用期間が終わってからの加入」というのは、法律的には、全く根拠が無いことなんです。
試用期間の社会保険未加入はパッと見はオトク
先程書きましたように社会保険料の負担を考えると、ある程度、労働者の様子を見たい、という社長さんの気持ちもわかりますが、私はこれに反対です。
加入条件を満たしている場合には、入社日から社会保険に加入することを断然お勧めしております。
なぜなら冒頭で申し上げましたように、一見すると「得」をしているつもりが、実は「損」となるケースがあるからです。
「何で損なの?入社して1ヶ月で辞めてしまったら、社会保険に加入していなければ、保険料が無駄にならずに済むでしょう?」という意見もあることでしょう。
見えるコストだけを考えれば、その通りかもしれませんが、雇用した労働者がすべて1ヶ月で辞めるわけではありません。
雇用にかかるコストを考えると、雇用した労働者のうち、数か月で辞めてしまう労働者の方が多ければ、経営マネジメントに問題があると考えたほうが良いはずです。
試用期間の社会保険未加入で生じる実損とは
試用期間の社会保険未加入を行っていると、やがて目に見える損失も生まれ始めます。
社会保険に加入すると、定期的に国の調査を受けることとなります。
実際に、事業所を調査する役所は、各管轄の日本年金機構です。(昔は、社会保険事務所と呼ばれていました)
社会保険の調査ですが、是非、正しくご理解していただきたいのです。
調査と言えば、労働基準監督署の調査を思い浮かべられると思いますが、社会保険の調査と労働基準監督署の調査と1つ大きな違いがあります。
労働基準監督署の調査は、基本的には、労災事故や労働者の申告等があった場合に行われます。
もちろん、定期的な調査も行われているのですが、監督署の職員の数に対して、事業所の数の方が圧倒的に多いので、定期的な調査に当たる確率は、非常に低いと言えます。
対して社会保険の調査は、数年に一度、定期的に行われます。
「うちの会社には、社会保険の調査なんてここ何年も入ったことが無いよ!」と言われ方もいることでしょう。
数年前までは、私の顧問先で、社会保険の調査が行われる事業所は、年に1、2社程度でしたが、昨年位からその数が急激に増え、年に7社位調査が行われるようになりました。
理由は、日本年金機構が年金問題以降、民営化されたことに起因します。そのためかどうかは定かではありませんが、年金問題がある程度落ち着いた数年前位から、急に調査が頻繁になっています。
実際に、日本年金機構からも、「調査については重点を置いていく」と聞いています。
ですから、何年も調査が無かった会社でも、必ず近いうちに調査を受ける可能性が非常に高いと言えます。
さて、社会保険未加入が調査により判明した場合はどうなるでしょう?
未加入分の費用はもちろんのこと、追徴金もこの時支払わなければならないことになります。まさに、泣きっ面に蜂状態です。
社会保険の未加入は、イケてない節約術と言えるでしょう。
この当たりについては、更に長くなりそうですので、別記事で解説いたします。