日本に昨年訪れた訪日外国人(インバウンド)の数は、過去最大の1,973万7千人を記録しました。私達が外国を訪れた時に、その国独自のグルメを堪能したいのと同じように、インバウンドの多くも日本での食事を楽しみにしています。ところが日本の飲食店は、まだ彼らに対してアピールしている店舗が少なく、特に16億の人口を有するイスラムには全くと言っていいほど対応していません。今後の進歩が求められます。
外食業界にインバウンド需要の黒船が現れる
2015年の外食の状況を見ると、インバウンド需要とシニア層が求める、「ちょっと高価格な良いもの需要」が小売と同様に外食の下支えになりました。
一方で若い世代、子育て世代の節約志向がコンビニ、スーパーの中食へ移行し、外食を控える傾向が消費の二極化を拡大しています。
特に目を見張るのが、外食におけるインバウンドの存在感です。
外食の業績下支えとなった、インバウンド観光客はどんな状況だったのでしょうか。
インバウンド観光客事情。45年ぶりに訪日外客数が上回る
日本政府観光局(JNTO)は、2015 年の訪日外客数が前年比47.1%増の1,973万7千人で、JNTO が統計を取り始めた1964年以降、最大の伸び率となったことを発表しました。
過去最高であった2014 年の1,341万3千人を600万人余り上回り、1970年以来45年ぶりに訪日外客数が、出国日本人数を上回ったと言っています。
インバウンド増大の主な要因は、クルーズ船の寄港増加、航空路線の拡大、燃油サーチャージの値下がりによる航空運賃の低下、これまでの継続的な訪日旅行プロモーションによる訪日旅行需要の拡大があります。
円安による割安感の定着、ビザの大幅緩和、消費税免税制度の拡充等も増加を後押しました。
市場別では、主要20市場のうち、ロシアを除く19市場が年間での過去最高を記録し、中でも中国は前年比107.3%増の499 万人に達し、初めて最大市場となったと分析しています。
訪れた中国人の爆買いは凄まじい勢いを見せました。銀座中央通りには観光バスが隙間なく停車し、そこから吐き出された観光客は、ブランド物店に群がっていました。
この爆買いは別にしてインバウンド観光客のお目当は、日本での食事にあるようです。我々も海外旅行時はその土地の美味しい食べ物を期待しますから、それは変わらないと言っていいでしょう。
飲食がインバウンド需要のため対応したい問題
フードビジネスの多店舗化を目指す経営者の皆様はどう考え、どう対応していくことが必要でしょうか。
旅行者の旅の楽しみは、もちろんその土地の観光が大きいでしょうが、楽しみの最優先位にあげているのが、“食事”です。
特に日本食は最近の和食ブームもあり人気です。
我々日本人でもそこは変わらないでしょう。旅行に行ってその土地ならではの食事は最大の楽しみではないでしょうか。
そこで、インバウンドのお客様が我々のお客様になっていただくため、考えなければいけないことがあります。
まずは、どのように我々の店をアピールするか。お店の存在、美味しい料理の存在を知ってもらわないことには、来店してもらうことは不可能です。
もし貴方が飲食店を運営しており、インバウンドのお客様に対応していないならば、以下の施策を凝らすことは賢明です。
1:旅行者向けのガイドブックに広告を出す
旅行者向けのガイドブックは非常に有効な手段のようです。もちろん口コミの力は大きいようですが、各国向けに多くのガイドブックが出ています。
Webでも探せますので是非トライしてみてはいかがでしょうか。いかにWebに情報発信するかが大事です。
インバウンド観光客を観察していると、彼らは日本人に聞くというよりは、スマホ片手に行き先を確認しながら行動していることがよくわかります。
Webの情報が、彼らをナビゲートしているのです。
2:外国人留学生の力も借りつつ販売促進
そんな中、ユニークな取り組みで成果を上げている事例があります。
今、日本には多くの留学生が来ており、彼らの中には非常に優秀な人が多数存在します。しかし日本では、多くの場合飲食店等の労働力として働いているのが実情です。
ある会社ではそうした留学生に、単に労働量としてではなく、販売促進の一員として頑張ってもらっています。
その留学生は出身国で、日本紹介のガイドブック等への店舗の紹介を行っています。
祖国のことはよくわかっていますし、日本を目指す観光客が何を情報源にしているか理解しているわけですから、効果は非常に大きいようです。
来店したお客様対応も、最低限のポイントを、自国の言葉を押さえて店舗へ向かうことができます。
3:英語表記を心がける
更に、ホームページ等も英語等外交語表記でアピールすることも大事なようです。積極的に情報を発信し、その情報をお客様がSNSで拡散するという図式が多いようです。
来店していただいたときの対応も大事です。少なくとも店舗では、英語表記等のメニュー等の工夫も必要でしょう。
4:市場規模16億人のイスラム教徒へ「ハラル食への対応」
もう一つ、インバウンドに対応する上で気になることがあります。大きく訪日客が伸びているアジアにおいて、訪日客の伸び率が少ない国があります。
中国、香港、フィリピン、ベトナム等、訪日客の伸びが多いと、中国の前年107.3%増、フィリピン45.7%増、ベトナム49.2%増、などと大きな伸びを示しています。
しかし、マレーシア、インドネシア、シンガポールは訪日伸びの低い国です。シンガポールが35.5%台ですがマレーシア22.4%、インドネシア29.2%と大きく出遅れています。なぜでしょう。
この国の人の多くはイスラム教徒であり、日本で食事の不安が大きいために、来日を敬遠してしまっているのが一つの要因ではないかと言われています。
彼らの国では、宗教上の理由からハラル(禁じられていない食物)でないものは、口にできないからなんです。
日本に住んでいるイスラム教徒の人が日本で生活していくのに大変なのは何かというと、買い物をするときにその成分表をいちいち確認してから購入しているそうです。
しかし日本語の苦手の人はそれすらもできません。
今、新大久保あたりにハラル食材店が非常に増えてきています。ここではハラルの食材しか置いていませんから、安心して買い物を楽しんでいるようです。
では海外ではどうなのでしょうか?
アジア圏でもほとんどハラルマークが付いていますから、彼らはそれを見て安心して購入しているんですね。レストランでも同様とのことです。もちろんお祈りをする場所の問題も同様です。
その体制が不十分な日本は、行ってみたい国No.1でありながら二の足を踏んでしまう国になっています。
マレーシアなどは個人所得も高い国ですし、親日的な国です。日本の体制が整った時には、インバウンドの動きに大きな変化が生まれる予感がします。
日本食は大好きです、ラーメン食べてみたい!!これが彼らの声です。特に最近日本食がアジア諸国に進出していますから余計です。
世界人口のうち16億人がいるイスラム教徒の人が、今後日本を目指します。
楽しく、スムーズに美味しい日本食を味わっていただけるように、ハラルへの対応を検討されても遅くはないようです。狙い目は食事と土産物だそうです。
国も積極的に支援を始めています、この機会に多店舗展開を目指す経営者の皆様は、是非研究されて他店との差別化を図って見てはいかがでしょうか。
2020年の東京オリンピックも視野に受け入れを
いずれにしても、このインバウンド観光客の増加は、オリンピックもありますが国の政策もあり続くでしょう。
特に、欧米諸国の環境客と比較すると日本のそれは非常に少ない状況であり、フランスの8千3百万人、アメリカの7千4百万人とは言わなくても、イタリア並の5千万人でも日本の魅力を考えれば不思議ではない数です。
日本の魅力をアピールし、受け入れ態勢を整えることで可能なことでしょう。
観光客に迎合するのではなく、日本のアイデンティティーを大事にし、その素晴らしさを感じてもらうことが成功の秘訣ではないでしょうか。
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合同会社FMDIフードビジネス多店舗展開研究所
代表 坂本 和彦
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