家具大手の大塚家具で、創業者・勝久氏との委任状争奪戦に勝利した久美子氏は、旧来の大塚家具のイメージ脱却に向けて2015年に着々と準備を進め、売上高・営業利益も前年比で大きく伸ばしました。しかしこれも過去の遺産売却あってこその数字。本当の意味で真価が問われるのは、全ての店舗運営が久美子氏の方針によって実行される当期、特に店舗を一斉リニューアルした2月以降と見られます。
大塚家具・お家騒動で久美子氏勝利から1年
創業者・大塚勝久氏(以下:勝久氏)と、長女・大塚久美子氏(以下:久美子氏)の間で繰り広げられた、大塚家具の株主委任状争奪戦(プロキシーファイト)から、あと少しで1年が経とうとしています。
昨年3月末に行われた株主総会では、久美子氏が金融機関の支持を取り付けた結果、61%の票を集めて代表取締役に就任。
事実上敗戦となった勝久氏は取締役を解任され、大塚家具の株式を売却した資金で、「匠大塚」という会社を昨年の7月に設立し、今年の4月から本格的に運営し始めます。
勝久氏と久美子氏の間では、ガバナンス(企業統治)のあり方はもちろん、これから大塚家具が推進すべきビジネスモデルに関する考え方の違いが決定的な溝を作りました。
勝久氏は、これまでの高級路線・会員制顧客囲い込みのビジネスモデルを突き詰めることに固執したのに対して、久美子氏は、カジュアル路線・オープン型店舗運営を基盤としたビジネスモデルの推進を断固主張していました。
大塚家具の業績は向上も過去の遺産効果大きく
久美子氏は、株主総会が終了した4月以降、これまで大塚家具に消費者が抱いていた「高い」というイメージを払拭し、自分の考えを着々と実行に移すべく、様々な施策を打ってきました。
4月下旬から5月初旬にかけては、「新生・大塚家具 大感謝フェア」と銘打って全店規模の大規模セールを実施し、結果として前年同月比170%の店舗売上高を叩き出します。
7月には「新生大塚家具 新ブランドビジョン」を発表、会員制ビジネスの刷新や店舗のオープン化を社是として、IRで公開発表。
11月には新ブランドビジョンに則った店舗作りを実行するため、これまでの家具在庫を一掃することを目的として、「全館全品売りつくし」セールを創業以来初めて実施しました。この月も、大塚家具の店舗売上は前年同月比131.6%を記録します。
これ以外の月も、大塚家具の月次店舗売上は4月を除いて前年比100%超を記録し、平成27年の通期業績は、売上高が前年比4.5%増の580億円(前年:555億円)、営業利益に至っては4.7億円の黒字(前年:4億円の赤字)と、驚異的な業績回復を達成しました。
多くの専門家もこれに反応し「久美子氏の戦略は正しかった」としていますが、実際のところ真価が問われるのはこれからです。
というのも前期の売上増は、結果的に、大塚家具が保有していた高級家具の見切り売りセールに多くを委ねたものだからです。
大きな売上増は在庫セールが行われた月に集中しており、更に親子騒動が大きく取り扱われることを逆手に取った販促方法が、マスコミ各社に取り上げられたことも功を奏しました。
コントラクト(法人への契約販売)の売上は前年比で39.7増の伸びを見せているものの、全体売上580億円に対してわずか17億円強(全体の3%)しかありません。
2月は久美子氏にとって本当の意味でスタート
大塚家具の決算締めは12月期。
新しい期初となる今年の1月以降に、店舗の売上高が伸びていくか否かで、久美子氏の真価が問われることになります。
そして久美子氏は、おそらくこの2月を勝負の鍵としていることでしょう。
なぜなら大塚家具の全店舗は、2月6日(土)に、新宿店を皮切りとして、一気に「新生・OTSUKA」と銘打つ、カジュアル路線・オープン型な店作りに完全移行したからです。
久美子氏にとっては、この2月こそが100%自分の土俵でビジネスをスタートした時期と言って過言ではありません。
自ら2月6日のツイッターアカウントで「大きく変わった」とする店舗が、既存の顧客層を納得させて、新しい顧客層を捕まえられるかに焦点が当たります。
おりしも年末までの在庫一層セールの反動で、今年の1月店舗売上は、前年比割れ89.3%。
2ヶ月連続での前年割れは、内外どちらからも許されにくい状況です。
3月初旬に発表される、大塚家具の2月店舗売上に注目が集まります。久美子氏の真価もその時に問われ始めることでしょう。