法律はある程度の事態が起きることを予想して作られていますが、時として法律も想定しない事例が現場ではよく生じます。
その一つが「別の会社の代表取締役を労働者として雇用する場合、雇用保険へ新たに加入する必要はある?」というものです。
経営者は雇用保険の被保険者ではなく、退職した後も他社の代表であれば失職したとは認識されません。
この問題を決着する根拠は意外にも曖昧です。
他社の社長を雇用する際に雇用保険は必要?
雇用保険への加入条件は、ある程度明確に定められているので、これまで「法律が想定していない事態が起こり得る」と考えることは、まずありませんでした。
ところが、そのような事態が実際に起ったので、皆さんと今日は共有したいと思います。身の回りで同じ疑問を抱えている経営者さんがいることでしょう。
皆さんはすぐに答えられますか?
多分答えられない方が殆どだと思うので、実際に起こったケースから対応方法を解説しましょう。
社長は原則的に雇用保険の被保険者となれない
先日、1人で会社を経営をされている社長様から連絡がありました。
「今度、1年間だけなんですが、社員を雇用することになるので、どのような手続きをすれば良いですか?」
詳しいお話を聞いてみると、その雇用予定の社員の方は、別の会社で社長をされているのですが、業務の都合でどうしても、雇用契約を結ばなければならないそうです。
たとえ会社の代表者であっても、全く別の会社で雇用されれば労働者となるので、労災保険に加入する必要があることに疑う余地は無かったのですが、雇用保険について「??」と考えてしまいました。
現在の通常の労働者の雇用保険の加入条件は、1週間の労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みです。
代表取締役は、雇用保険の被保険者にはなりません。
しかし、今回は、自分が代表取締役をしている会社と全く関係が無い会社に、経営者が雇用されるわけです。
雇用保険の規定に、代表取締役等、雇用保険の被保険者にならない場合がいくつか定められていますが、「雇用される労働者が別の会社の代表取締役の場合」についての規定は、特別ありません。
であるならば、「たとえ、別の会社の代表取締役であっても、雇用保険への加入条件を満たせば、雇用保険に加入しなければならない」と最初は思いました。
しかし、ふと疑問が湧いてきました。
この従業員(他社の社長)が、1年後に離職した場合に、仮に失業給付の受給条件を満たしていても、別の会社の代表取締役である限り、「失業状態」とはならないので、失業給付を受給することができなくなります。
もちろん、離職時に必ず代表取締役である確証はないのですが、ただ、雇用保険は、失業給付の受給を主な目的としているため、加入時に失業給付の受給ができない労働者を加入させるのも、何か腑に落ちない、と思いました。
法律には事態を想定しない穴が沢山存在する
ここでハローワークに確認してみたのですが、結果的に今回の場合は、雇用保険に加入する必要がない、との回答になりました。
その根拠は意外なもので、「失業給付が受給できないため」という事とは全く関係が無いものでした。
ただ、根拠と言っても、法律に明確に定めがあるわけではなく、「法律が想定していない」ということのようなんです。
雇用保険法第4条及び第6条の定めから、適用除外者になっていない限り、他社の代表取締役をしていたとしても、雇用保険の被保険者になります。
労働局職業安定部雇用保険課に問い合わせをしていただいた方から、「他社で代表取締役であろうが被保険者の要件を満たしていれば当然被保険者になる」とのご指摘をいただきました。
ここに訂正させていただきます。(2016年7月29日訂正)