「給与支払日を毎月何日にするか?」に関して、会社立ち上げ当初はあまり深く考えずに決めてしまったために、その後変更したいと思われる経営者の方は数多くいらっしゃいます。
実際に給与支払日によって会社が大きな不利益を被るケースは多々あります。
不利益の具体例を見ながら、給与支払日変更の際に、労使交渉を円滑に進めるため気をつけるべき4つのポイントについて解説いたします。
給与支払日の設定で会社が大きな不利益を被る
「給与支払日を毎月何日にするか?」に関しては、各社それぞれ決められていることでしょう。
会社立ち上げ当初はあまり深く考えずに決めてしまったために、その後変更したいと思われる社長さんの相談を受けることも多くあります。
実際、給与の締日支払日の設定で、会社が大きな不利益を被るケースも多いようです。
そこで本稿では「給与支払日を円滑に変更する際はどのような点に注意したら良いか?」という問題について、お答えしたいと思います。
給与支払日設定で2つの不利益を被った具体例
例を一つ挙げさせて頂きます。
その会社は、末締め翌月末日払の給与支払い条件でしたが、毎年3月が繁忙期であり、1年間で突出して3月が忙しい会社です。
このことにより、会社が被っていた不利益は2つありました。
1つ目の不利益は、キャッシュ・アウトが一定期間にかたよることで、特定の時期にキャッシュ・フローが圧迫されるということでした。
3月の繁忙期は当然残業代の支払いが多くなる分、人件費が高くなるので、4月末日に支払う給与が1年間で突出して高くならざるを得なかったのです。
2つ目の不利益は、3月に人件費が増大すると、会社負担の社会保険料の支払いが恒常的に、会社のコストを圧迫するという問題でした。
通常、1年間の社会保険料は、社員へ4月から6月の間に支払われる給与の額によって、決定されることになっています。
社会保険の制度において4月分の給与とは、4月1日~4月30日の間に支払った給与であり、締日は関係ありません。つまり、この期間に残業代が多ければ、会社は多めの社会保険料の負担を1年間続けざるを得なかったのです。
先程の例で言うと、4月末日の給与が残業代を合わせて30万円で、その他の11カ月間の給与が20万円だとします。
そうすると、3月以外に殆ど残業が無いその会社では、以下のように社会保険の不利益が生じてしまいます。
- 3ヶ月分の給与平均額:4月分・30万円+5月分・20万円+6月分・20万円=70万円÷3か月=23万3333円
- 標準報酬:24万円(4月から6月までの給与平均額が23万〜25万円の場合は、厚保15等級にあたる)
例えば、以上の給与を貰った社員が45歳の場合、健康保険料は2万7696円、厚生年金保険料は4万2787円かかります。(平成28年1月現在宮城県の数字で計算)
この数字を労使で折半するので、労使はそれぞれが、健康保険で1万3848円、厚生年金で2万1394円を負担します。
通常の給与は20万円なのに、社会保険料は4月〜6月の標準報酬である24万円で計算されてしまいます。
これが、給与20万円で計算されると、健康保険料は労使合わせて2万3080円、厚生年金は3万5656円となり、折半額は、健康保険で1万1540円、厚生年金で1万7828円で済みます。
1カ月当たりの労使折半負担額の差額は、健康保険で2,308円。厚生年金で3,566円で、1ヶ月あたりの負担増額は併せて5,874円にもなるのです。
これを1年間続けると、会社も社員も一人あたりで年間70,488円も多くの負担を負ってしまうことになります。
もしも同じ負担を背負う社員さんが20人もいれば、会社の余分な負担額は合計で約140万円にも到達してしまうのです。
給与支払日変更を円滑に進める4つのポイント
前例の企業は、給与の締日を毎月25日に、支払日を当月末日に変更しました。
そうするとどうなったと思われますか?
繁忙期の3月分の給与の殆どを3月末に支払うことで、4月末に支払う分の残業代が大幅に削減できました。
これにより、会社の負担も減りますが、社員の保険・年金負担も大幅に削減できます。
会社さんにも社員さんにもとても喜んで頂けました。
このケースで言うと、給与支払日変更に関する実務上のポイントは、以下の点です。
1)メリットがあればしっかりアナウンス
社員さんにもメリットがある場合は、しっかりとその事実を説明しましょう。
先程の例で言うと、毎月の手取りが6,000円弱上がりますよ。年間では約7万円上がりますよと説明するのです。
負担が減るという説明でも良いですが、手取りが増えると説明した方が良いケースもあります。
好きな方を選びましょう。個別のシミュレーションを立てても良いかもしれませんね。
2)社員に納得の捺印を押してもらい就業規則も変更
とにかく社員さんに納得していただいたうえで合意してもらうことが肝心です。
できれば、社員説明会を開催し、社員全員の合意書を取って、全員の署名捺印を貰いましょう。
そのうえで、就業規則を変更することが実務上必要です。しっかりと労働基準監督署に就業規則の変更届を提出しましょう。
3)給与支払の実務担当者への個別説明をしっかり行う
先程の例で言うと、末締め翌月末払いの会社が、25日締めの当月末払いに変更しました。
そうすると、一番大変なのが給与計算担当者です。
従来は1か月かけてやっていた給与計算業務を5日間でやる必要が出てきます。
その辺は給与計算担当者へのしっかりとした個別説明が必要です。給与計算を外部に委託している場合でも同様です。
4)会社都合の変更である場合は社員個々の都合に応じる
社員の中には、毎月毎月1ヶ月分のお給料をしっかりと貰わないと生活が大変な人が必ずいます。
例えば、20日締め当月末払いの会社が、末締め翌月末払いに変更したいとした場合を考えてみましょう。
12月20日で締めた給与を、12月31日に支払います。
その翌月から変更の場合、1月末の給与は、12月21日~12月31日の10日分の給与となります。
それから1月1日~1月31日の給与を2月末に支払います。
その後は通常通りになりますが、変更時に10日分しか貰えないと生活できない社員さんもいることでしょう。
その際は、例えば、会社が2月の10日に2月末に支払う分の給与の一部を支払う等の提案があっても良いかもしれません。
必ずしも社員全員にとって分割払いが必要ではないかもしれませんが、そういった形を希望する社員さんを募ることも、給与支払日の変更に対して、スムーズな合意を撮るコツです。
組織は感情の固まりゆえ柔軟な対応が大前提に
いかがだったでしょうか?
労働基準法からすると、就業規則を変更することで給与の締日支払日を変更することは可能です。
また、会社の経営を円滑にする上で、給与支払日の変更は有効な手段の1つと言えます。
しかし、組織は人間で出来ており、いわば感情の塊です。
様々な部署や、それぞれの家庭の事情等を勘案して、柔軟な対応を会社が取って、社員さんに提案し、スムーズに合意を取ることが重要です。
とにかく会社の都合だけで強引に押し付けて、つまらない労使紛争を起こすことのないようにしましょうね。