会社の従業員がケガや病気で医療機関を受診するときには、労働者災害補償保険(以下:労災保険)と健康保険の2つの社会保険が利用できます。2つの保険は利用できるケースがそれぞれ定められていますが、突然のアクシデントに労災保険を利用すべき場面で、健康保険を利用して医療機関で治療を受けてしまった時は手続きが煩雑になってしまいます。もしもの場面でどう対応すればよいかプロが解説してくださいました。
従業員の保険は労災保険と健康保険の二種類
会社の従業員がケガや病気で医療機関を受診するときには、労働者災害補償保険(以下:労災保険)と健康保険の2つの社会保険が利用できます。
しかし2つの保険は、それぞれ利用できるケースが定められています。
いきなりですが、読者の皆様にクイズです。
- ケース1:社員が業務中に重い商品を落として足を怪我した
- ケース2:社員がプライベートの旅行中に風邪をひいた
これら2つのケースでは、労災保険と健康保険のどちらを利用するべきでしょうか?
答えは、ケース1が労災保険を利用、ケース2が健康保険を利用するべきケースです。
なぜなら労働保険と健康保険は、利用範囲を以下のように定められています。
- 労災保険:従業員が業務または通勤が原因で負傷したり、病気にかかったりしたときに利用するもの
- 健康保険:業務外の理由で負傷したり、病気にかかったりしたときに利用するものです。
落ち着いた状態で保険の使い分けが出来るならば良いのですが、業務中に大怪我をするなど瞬間の判断が必要となる、突然のアクシデントが起きる場合もあります。
このような時に、本来であれば労災保険を利用すべきなのに、冷静に判断できず、従業員が健康保険を利用して医療機関で治療を受けてしまうことがあります。
ここで面倒なのが、健康保険から労災保険への切り替え手続きが必要になることです。
誤って医療機関を受診してしまうことが少なくないことから、今回は、その切り替え手続きについて確認しておきたいと思います。
労災治療を健康保険で診療受けた後の手続き
切り替えについては、まず最初に、受診した医療機関の窓口に申し出て、切り替えが可能か否かの確認をすることになります。
切り替えが可能か否かで後日の対応は以下のように変わります。
1.受診した医療機関で切り替えができる場合
医療機関の窓口に申し出れば、窓口で支払った健康保険の医療費の自己負担分を返金してもらうことが可能です。その後、労災保険の様式第5号(業務上の災害の場合)または様式第16号の3(通勤災害の場合)の請求書を受診した医療機関へ提出すれば手続きは完了です。
2.受診した医療機関で切り替えができない場合
既に切り替えができない場合には、医療費の全額をいったん、従業員が立て替え、労災保険へ請求することになります。具体的には、協会けんぽ・健康保険組合(以下、「協会けんぽ等」という)へ労災保険の適用であったことを申し出ると、協会けんぽ等から医療費返納の通知と納付書が届きます。かかった医療費の全額から、既に医療機関で支払った自己負担額(3割)を除いた7割の医療費を金融機関で返納金として支払います。その後、労災保険の様式第7号(業務上の災害の場合)または様式第6号の5(通勤災害の場合)を記入し、医療費の全額を労働基準監督署へ請求します。
労災保険に対する従業員の教育は必須
このように労災保険を利用すべき場面で、健康保険を利用して医療機関で治療を受ける場合には複雑な手続きが必要です。
切り替え自体も従業員自身が行うことになり、切り替えが出来ない場合は、一旦、医療費の立替が必要になり、費用負担も大きくなってしまうのです。
業務や通勤でのケガや病気で医療機関を受診する際には、最初から誤って健康保険証を出さないように、従業員へ周知しておくことをお勧めいたします。
なお、協会けんぽ等では、業務や通勤のケガや病気であることの確認のために、負傷原因報告書の提出が求められることがあります。