ABCマートが今年4月にブラック企業対策として設置された「過重労働撲滅特別対策班」(通称“かとく”)によって初の書類送検対象となりました。勧告を与えても給与を支払っているとして改善しなかった点が、今回の送検にあたり大きなポイントとなります。国の長時間労働を排除する施策に従い、企業には生産性の高い労務管理体制の構築が求められています。
ABCマートが労働基準法違反で書類送検
靴の小売大手チェーンであるABCマートが、長時間労働による労働基準法違反で書類送検されました。
池袋と原宿の運営店舗で、法定時間や労使協定で定めた上限(月79時間)を超える、97時間15分から109時間22分の残業をさせるなど、労使協定を超えた法定外労働が行われていたようです。
今回の一件は、今年4月にブラック企業対策として東京と大阪の各労働局に設置された「過重労働撲滅特別対策班」(通称“かとく”)による初の書類送検となります。
「かとく」はベテラン労働基準監督官で構成された、脱税摘発のプロであるマルサ(国税局査察官)のような精鋭部隊です。
主に改ざんされた労働時間の解析など、立証に高度な技術を要する事案を担当します。
ABCマートの送検事案で注目すべきポイント
今回の送検事案のポイントは2点あります。
1)長時間労働に対する勧告を与えても改善しなかった
1点目のポイントは、ABCマートに是正勧告があったにも関わらず、環境改善しなかったことが書類送検につながった点です。報道では「長時間労働=書類送検」のようなイメージですが、長時間労働=即刻書類送検ではありません。あらかじめ是正勧告があり、改善のための猶予期間が与えられます。それにも関わらず改善しないと、悪質性が高いと判断され今回のような結果になります。
2)給与を支払っても書類送検される
2点目は、割増賃金は適正に支払われていたにも関わらず、ABCマートが書類送検されたことです。労働契約は労働者が労働することと企業が給与を支払うことで成立しますが、“給料さえ払えばどれだけ働かせてもよい”というわけではありません。給与さえ払えばよいという認識は捨てる必要があります。
国が過重労働撲滅に本気で乗り出している
労働基準行政では、労災死亡事故・労災かくし・最低賃金違反が主な書類送検事案でしたが、近年では長時間労働による送検事案も増えてきました。
長時間労働撲滅に対する国の強い姿勢がうかがえます。
背景には、長時間労働に起因する労災発生件数の増加と、「高度プロフェッショナル制度」の新設を柱とした労働基準法改正案があると思われます。
いずれ「かとく」は全国の労働局に広がるでしょう。
企業にとっては、長時間労働をさせなくても生産性向上につながる人事労務体制の整備が急務です。