宿泊業界において、かつて一体とされた「所有」と「運営」を分離して「運営受託」という概念を生み出し、売れないホテルの再生屋、運営のプロとして業界に風穴を明けた会社と言えば星野リゾートです。ゲーム業界でも同じように「所有」と「運営」を分離し、ゲームのセカンダリー市場を作る「運営特化型」のスープレックスという会社が飛躍しています。「運営特化」の事業がこれから様々な業界に広がっていくことでしょう。
星野リゾートが断行した「所有」と「運営」の分離
こんにちは。マーケティングコンサルタントの松尾です。
読者の皆さんは「星野リゾート」をご存知でしょうか?
同社の社長である星野佳路氏が、しばしばテレビや新聞にも登場されるのでご存知の方も多いと思います。
さて、星野リゾートの主力事業はリゾートホテル。最近東京・大手町にもできた「星のや」をはじめ、温泉旅館の「界」など、様々なスタイルのホテルを展開しています。
いずれのホテルも、「玄関で靴を脱ぎ、畳にあがるという日本の生活文化を継承する日本旅館。」(星のや)、「王道なのに新しい」(界)など、しっかりとしたコンセプトのもとで、設計から運営が行われており、結果としてファンの支持を受け、良好な運営状態を保っています。
星野リゾートはもともと、軽井沢の温泉旅館から始まっていますが、近年は「ホテル運営のプロ」を標榜しています。すなわち、経営難に陥ったホテルの運営を引き受け、マーケティングやサービスの質などを改善することにより再生を実現することを得意としているのです。
同社が運営に乗り出したことで再建を果たしたホテルとしては、リゾナーレ小淵沢、アルファリゾートトマムなどがあります。
従来、日本の宿泊業は、ファミリービジネスが多く、所有と運営が一体となっていますね。
しかし、宿泊業を事業として成功させるためには、“温泉がある”“施設が豪華”といったハード面だけでなく、広告宣伝やスタッフのサービスなどソフト面の工夫も重要であり、相応のスキルが必要です。
現実には、そうした運営のスキルが十分にないため、閑古鳥が鳴き、つぶれてしまいそうな旅館やホテルもあるわけですね。星野リゾートは、欧米では一般的な、「所有」と「運営」を分離し、「運営受託」することによって、自社ノウハウを注入し、多くの旅館・ホテルの再生を実現してきました。
ゲーム業界の星野リゾート?!ゲーム運営に特化するファンプレックスの取り組み
さて、星野リゾートのように、他の業界でも「運営」に特化した事業を展開している会社があります。2015年に設立されたネットベンチャー「ファンプレックス」です。
同社は他社が開発したオンラインゲームを買い取り、ゲームのユーザビリティ(使いやすさ・操作性)を改善したり、ファンイベントなどを開催することでゲームの魅力を高め、持続的に収益を上げることに取り組んでいます。
前回の記事でご紹介した梅原大吾氏が主戦場とする「ストリートファイター」は、アーケードゲームからスタートした事業で、それこそ何十年も続いていますが、ファンプレックスは、「サービスを終了するゲームをなくす」をスローガンに掲げ、ユーザーを飽きさせない様々な工夫を凝らすことに注力しているわけです。
もちろん、ゲームの魅力を高めることで収益力を強化するだけでなく、サーバを集約するなどして経費削減をはかり、利益率を向上させる取り組みも並行して行っています。
ファンプレックスでは、現在シミュレーションロールプレイングゲームとして有名な「聖戦ケルベロス」をはじめ、国内外の18ゲームを運営しており、取扱高は年100億円に達しています。
オンラインゲーム業界も競争が激しく、より面白いゲームにするための開発費用は膨大なものになります。
しかし、言うまでもなく開発して終わりではなく、ユーザーを惹きつけ、課金収入につなげること、また既存ユーザーを固定客化して安定収益を図るための「運営」がより重要になってきています。
ファンプレックスのような「運営特化型」の会社もこれから増えていくことでしょう。星野リゾートが先鞭をつけた「運営のプロ」はこれからさらに様々な業界に広がっていくかもしれません。