労働トラブルの一番の原因は労働条件通知書を交付しないことに端を発します。従業員を採用したのに労働条件通知書を交付しないのは、結婚したにも関わらず婚姻届を提出していない夫婦になるのと同じこと。言った言わないの延々と続く水掛け論と、一通の通知書を交付する手間、皆さんはどちらを選びますか?
小規模事業者の7割が労働条件通知書を未交付
労働基準法は、労働者を雇用する際に、労働時間・就業場所・賃金等についての労働条件を、書面で労働者に通知しなければならないと定めています。
ところが、以前に労動基準監督官の方の講演を聞いたときのこと、彼いわく、労働トラブルの殆どは労働条件通知書を交付しないことに端を発する、と嘆いていました。
そして、実務上のトラブルを解決する立場の私から見ても、これは全くその通りのことだと感じています。
これまで多くの労働トラブルに関わってきましたが、そのうち7割以上の案件は、労働条件通知書を交付していれば防ぐことが出来たものです。
にも関わらず、多くの企業では、この労働条件通知書を満足に交付していません。
局地的な例でいうと、新潟・長岡労働基準監督署の調べでは、小規模事業者の7割が書面による労働条件の明示を行っておらず、8割が「口頭で説明すれば良い」と考えている、というショッキングなデータが明らかになっています。※
労働条件通知書を交付しないとなぜトラブルが起きやすいのか?
労働条件通知書が交付されないと、トラブルが起きやすくなるのはなぜでしょうか?
これは、お見合いと結婚にたとえることで、よく理解できるでしょう。
世間では「採用活動は、結婚相手を見つけるお見合いと似ている。」とよく言われますよね。
採用が決定し、いざ従業員を雇用することは、男女間の関係で言えば、結婚することと全く同じ意味を持ちます。
ならば、労働条件通知書は、入籍する際の婚姻届に相応するものと考えられるでしょう。
もし、婚姻届を出していないならどうなるでしょうか?2人は客観的な状況に鑑みて内縁関係とみなされることになります。
それでも、実質的に夫婦関係にあり、子供が生まれたとしたら、しかも2人のどちらからが、正式な夫婦関係を外で作っていたとしたら…
簡単に予想が付きますが、2人が万が一別れる時や、相続が発生した際には、大きなトラブルが発生しやすくなりますよね。
これと同じ理屈で考えれば、労働条件通知書の交付を行わなければ、労働トラブルが起きやすくなることのは無理もありません。
後になって始まる「言った」「言わない」の水掛け論ほど、解決の糸口も無く、両者にとって辛いものはありません。
いっそのこと労働条件通知書ではなく雇用契約書を作ろう
もしも、あなたが事業者で、ここまで述べたように労働条件通知書を交付していないなら、1つ提案したいことがあります。
労働条件通知書ではなく、いっそのこと、雇用契約書を雇用の毎に必ず締結することです。
本来、労働基準法では雇用に際して、労働条件は通知までを求めており、雇用契約書の締結は求めていません。
しかし、労働トラブル防止の観点から考えれば、一方的な通知より、通知を内包する雇用契約書を締結したほうがよいでしょう。
なぜなら、契約書という形を取れば、雇われる側は契約内容を確認・承諾し、署名・捺印を行う必要があるからです。
この「署名・捺印」は、トラブルが発生してしまった時に大きな役割を果たします。
従業員は、契約書に記述された内容について、後になってから「知らなかった」「聞いてない」という言い分が基本的に通せなくなります。
いずれにしても、労働条件通知書又は雇用契約書は、労働トラブルを防ぐ最も重要なツールですので、ぜひもう一度チェックし直してください。
※労働新聞社:「労働条件明示していない」が7割 小規模事業場への調査で発覚 長岡労基署
https://www.rodo.co.jp/column/11008/