昨年末に起きた新潟県糸魚川市の大規模火災について、火災発生時の避難行動に関する調査が最近発表され、避難勧告を受けていた住民の実に40%が自宅近くで火の燃え広がる様子を見ていたことがわかりました。不幸中の幸いで死者こそ出なかったものの、なぜこのようなことが起きたのか?同じようなことが起きた時に被害を最小限に防ぐ方法は無いのか?検証いたします。
糸魚川市の大規模火災〜住民の40%は現場から逃げなかった
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
昨年(2016年)の年末、住宅や店舗併せて144棟が焼け、延焼範囲が4万平方メートルに達した糸魚川市の大規模火災は、読者の皆さんにとってもまだ記憶に新しいところでしょう。
この火災では、363世帯、744人に避難勧告が出されました。
結果として死者は出ず、人的被害も、消火に当たった消防団員を中心に負傷者17名にとどまったのは不幸中の幸いでした。
さて、最近、同火災発生時の住民の避難行動についての調査がまとまり発表されています。
調査によれば、避難勧告が出ているにも関わらず、自宅の近くに留まり、火の様子を見ていた人が40%に達していました。
火災発生時、強風が吹いており、火災はじわじわと広がるだけでなく、あちこちに飛び火していたため、場所によっては逃げ道が塞がれ、煙に巻かれて亡くなる可能性がありました。
それでも、当事者は「我が家まではさすがに延焼しないだろう」、あるいは「まだ大丈夫だろう、いつでも逃げられる」と考えて避難しなかったのです。
「自分は大丈夫」と考える「正常性バイアス」
このように、身の危険が迫っているにも関わらず、根拠もなく「自分は大丈夫」と考えてしまう傾向は、「正常性バイアス」と呼ばれています。
「正常性バイアス」とは、非常事態が迫っていても、日常生活の延長的にとらえてしまい、危険を無視したり、過小評価してしまう心理のことです。
「正常性バイアス」は、あの東日本大震災においても観察されており、結果として多くの人命が津波によって失われたのでした。
そしてまた、糸魚川市の大規模火災でも、やはり避難勧告を受けた人には「正常性バイアス」が働き、避難行動を起こさなかった人が半数近くいたのです。
「同調性バイアス」は災害の被害を最小限に抑える
行政や専門家の立場からは、火災や地震、津波などの大規模災害が起きたときには、人的被害を最小に抑えるため、速やかに避難してもらいたいところでしょうが、なかなかそうもいかないのが現実。
では、どうしたら、もっと実際に避難する人を増やすことができるでしょうか。
一つの方法としては「同調性バイアス」を利用することが挙げられます。
「同調性バイアス」とは、人の行動を見て自分の行動を決める傾向がある心理のことを指します。
ベストセラーがますます売れるのは、「あの人が買ったのなら私も買おう」という右に倣えの「同調性バイアス」の働きのおかげです。
ですから、災害時においては、誰でもいいので大声で「みんな逃げろ~ここは危ないぞ!」と叫んで走り出すのです。
あなたは、人が逃げているのを見たらどうしますか。
とりあえずわけもわからず、一緒に走り出すのではないでしょうか。
そこには「同調性バイアス」が働いているわけです。
同調性バイアスを活かすことで起こった「釜石の奇跡」
実は、東日本大震災で、釜石市の小中学生3千人が津波の被害から逃れることができました。これは「釜石の奇跡」と呼ばれていることをご存知の方もいらっしゃると思います。
この時、子供たちが助かった理由は、防災訓練において「自分の身を守ることを考え、真っ先に逃げなさい」と教えられていたからだと言われています。
周囲の人の様子をうかがうのではなく、自分たちが避難行動を起こすことで、周囲も同調して逃げ出したおかげで助かったというわけです。
あなたが将来、大規模災害の当事者になったら、まず「逃げろ」と叫んで走り出す人になりましょう!