ソフトバンクが2013年に2兆円強の大金を投じて買収したスプリント株の一部を、ライバルであるTモバイルの株主であるドイツテレコムへ売却検討しているという報道が先週されました。
一部ではスプリントの売却劇を失敗とみる趣もあるようですが、その現実は実を取るための良策を取ったと言えます。M&Aは企業の目的達成と変化を成し遂げる手段に過ぎないからです。
ソフトバンクが米スプリント株一部売却を検討か
ソフトバンクが2013年に2兆円強の大金を投じて買収したスプリント株の一部を、ライバルであるTモバイルの株主であるドイツテレコムへ売却検討しているという報道が先週されました。
アメリカの携帯電話市場は、日本と同じ寡占市場であり、ベライゾン(1位:加入者約1.4億人)、AT&T(1位:加入者1.3億人)が2強を占めるのに対して、スプリント(4位:加入者約6,000万人)はそこから遠く離れた3,4位のシェアをTモバイル(3位:加入者約7,000万人)と分け合っています。
1位・2位と3位以下におけるシェアの差は大きく、ソフトバンクもかつてTモバイルを買収し、上位とのシェアの差を一気に縮めようとしたのですが、米国当局の承認が降りなかった経緯があります。
買収を目的化せず実を取る手段とするぶれない孫社長の姿勢
ソフトバンクによる統合が駄目で、ドイツテレコムが統合するのが良いという理屈はわかりませんが、統合が可能であれば、ソフトバンクには十分メリットがあります。
おそらく議決権のマジョリティーを取ることができないでしょうが、関連会社として損益を取り組むことは可能だからです。
連結しておきたい、目先の売上を確保しておきたい、という短期的な思考では無く、実を取りに行く上では非常に良策と思います。
もちろんマジョリティーを取って、子会社としてビジネスができればそれに越したことはありません。
しかし、それにこだわって実が取れなくては意味がないことを、孫社長は十分に理解しているのでしょう。
ソフトバンクと言えば、Yahoo!、ボーダフォン、アリババ、といった企業買収の華々しい成功事例をたくさん生み出してきました。
一方で実を取るために失敗した際の引き際も早く、1990年代に投資したアメリカのモジュールメーカー・キングストンテクノロジー、コンピュータ見本市のコムデックスなどは、早々に売却先を見つけ、致命傷を負わぬうちに、次の投資へ移る早業を見せています。
M&Aは目的を達成し変化を遂げる手段の一つ
ソフトバンクの次の一手は既に打たれています。
そうです。昨年の夏に買収したARMによる半導体ビジネスへの参入、米国企業への500億ドル規模の投資表明などです。
ソフトバンクは現時点で最善の策を打ちながら、常に方向性を変えることも辞さない企業です。
そして、M&Aは何かの目的を達成する、変化するための手段です。
これだけの企業規模になったのに、いつまで経っても買収を目的化しない、こうした態度はM&Aに望む方々にとって、とても大切なお手本事例になると思います。