LCCの勝ち組であるピーチ航空は、自社業務に関わる部分で徹底的なコスト削減による節約を行っている一方で、顧客サービスには惜しみない投資や新しいサービスの投入を行うことにより「かわいくておもろい航空会社」というブランディングに成功しています。節約(守り)とチャレンジ(攻め)を良いバランスで保つ企業の好事例と言えるでしょう。
ピーチ航空機内で限定車種ワーゲンが買える?
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
先日、福岡に帰省した際、ピーチ航空(以下、ピーチ)を利用しました。
自分の席に座り、ふと前の座席ポケットを見ると、なんと、ピーチとフォルクスワーゲンのコラボレーションにより、ピーチのブランドカラーであるピンクに塗装した特別仕様車、「Pink Beetle Peach Edition」が機内販売限定で買えるというチラシを発見。
おもしろいので思わず写真を撮ってしまいました。
限定5台ということですが、はたして機内販売で車が売れるのか興味津々です。
圧倒的な利益率を誇るピーチ航空の節約術とは
さて、2011年に就航したピーチは、3年連続増収増益を果たし、2016年3月期の売上高479億円、営業利益61億円、最終利益27億円となり、累損一掃を果たしています。
日本に進出しているLCC(Low Cost Carrier:低コスト航空会社)のうち、いち早く累損解消したのはピーチだけです。
さらに、注目すべきは利益率の差です。
売上ではジェットスターが522億円とピーチを上回っていますが、営業利益率はジェットスター2.5%に対し、ピーチは12.9%。
売上217億円のバニラ航空の営業利益率は6.9%であり、ピーチの営業利益率が突出していることがわかります。
ピーチの場合、就航当初から限られた資金での展開を強いられたことから、徹底した節約を行ってコストを削ったことで知られています。
例えば、オフィスのテーブルや椅子は中古ショップやネットオークションで購入したものであるため、大きさや形がバラバラですが、使えればよいという割り切りがされています。
FAXも廃止。無駄な紙の利用を減らすためです。また、エレベーターには鍵がかかっており、利用するたびに利用料金が発生します。
2015年には、空港に設置される新型の自動チェックイン機を開発したのですが、なんと段ボール製です。
おそらく、スチール製のしっかりした筐体よりも、はるかに低コストで製造可能でしょう。
こうして、関西を本拠地とするピーチらしい、「ケチケチ経営」の徹底が突出した利益率をたたき出すことに成功しているのです。
業務でケチってもサービスには投資を惜しまず
ただし、ケチるのは自社業務に関わる部分であって、航空会社として重視すべき安全性の向上や、お客様の快適さの部分はケチっていません。
機体はすべて新品のエアバス320-200型を購入。機体の老朽化が航空機事故につながりやすいからです。(実は、新品のほうが整備費が安く済むため、コスト削減が可能という一石二鳥を狙っています)
また、座席のシートは革張り。座り心地の良さを追求しています。
前述の段ボールチェックイン機も、旧型よりディスプレイが大きくなり、搭乗客の使い勝手は向上しています。
ターゲットを明確化し「かわいくておもろい航空会社」というブランディングにも成功
ピーチの高い利益率はこうしたコスト削減のおかげですが、コスト削減すれば売上が伸びるわけではありません。
もう一つ、ピーチの売上が急激に伸びている要因は、冒頭に紹介した、フォルクスワーゲンとのコラボレーションのような斬新な取り組みを次々と仕掛けているからなのです。
今年は、近畿大学とのコラボも話題を呼びました。近畿大学が開発したなまずを採用した「うなぎ味のなまずごはん」を機内食として販売したのです。
ブランディングにも成功しています。
ピーチ航空は、ビジネスではなく観光などの個人旅行のために利用する、20-30代の女性をメインターゲットとしており、女性が大好きなピンクをブランドカラーに採用。
関西拠点であることの特徴を活かして、関西出身の搭乗員は関西弁でアナウンスするなど、「かわいくておもろい航空会社」というイメージを確立することに成功したのです。
井上社長によれば、新しい取り組みをやるかどうかの判断基準は、
「おもろいかどうか」
とのこと。
ピーチ航空の躍進は今後も止まることはないでしょう。
Photo credit: BIG FOOT11 via Visualhunt.com / CC BY-ND