ダイバーシティとは、多様性のある人材を積極的に活用しようとする企業風土を意味する言葉です。一億総活躍社会を掲げる安倍政権の下でも、ダイバーシティの概念をもとに、「女性の活躍」や「多様な働き方」に関する改革が着々と進められています。ダイバーシティが広がる背景と、取り入れる際に注意しておきたいことをご紹介いたします。
多様性のある人材を活用するダイバーシティ
「ダイバーシティ」
ちょっと前までは、東京のお台場にある大型商業施設の名前でしょ?と思っている方も多かった言葉ですよね。
しかし、現在では、ダイバーシティといえば、多様性のある人材を積極的に活用しようとする企業風土を意味する言葉として、すっかり定着しています。
この概念をもとに、一億総活躍社会を掲げる安倍政権の下でも、「女性の活躍」や「多様な働き方」に関する改革が着々と進められています。
経済産業省では、「新・ダイバーシティ経営企業100選」として、経済産業大臣表彰を実施。
ダイバーシティ推進を経営成果に結びつけることに成功した企業の事例を幅広く紹介し、そういった取り組む企業を増やしていくねらいがあります。
いったいなぜ「ダイバーシティ」に注目が集まっているのか、その理由と意義について考えていきます。
ダイバーシティを導入する企業が増えた背景
まずは、ダイバーシティを取り入れる企業が増えている理由を、2つご紹介いたします。
1.グローバル化とニーズの多様化
昨今のグローバル化に伴い、経営環境や市場は劇的に変化しています。
このような中で、日本企業も国内のみならず世界を相手にビジネスを展開する必要に迫られており、更に顧客のバラエティに富んだニーズに対応していく姿勢が求められています。
このような背景から、顧客に提供する企業としても多様な価値観や能力を持つ人材に集まってもらい、「新たなイノベーションを起こしてほしい」との期待も相まって「ダイバーシティ」の推進がより進んでいます。
2.企業内の人材構成の変化
企業内の人材構成の変化も見過ごせません。
労働人口の減少や成果主義の導入などにより、戦後の日本において現在は、人材の流動性がかつて無いほど高まっています。
また、人材の採用方法、昇進や報酬に関しても多様な広がりを見せていることも、企業に多様性を認めさせる要因となっています。
これらの背景をもとに、企業が多様な人材をどのように経営戦略に生かし、会社にとって如何に新たな価値を創造していけるか?という視点の変化が現れ始めているのです。
ダイバーシティは手段であって目的ではない
さて、多様な人材を活用することのメリットは、その仕事やプロジェクトに求められる能力を持った人材同士が共に働くことで、新たな価値創造が生まれることにあります。
会社にとって新たな価値創造は、時代の変化に対応しつつ今後も繁栄し続けるために欠かせません。
ただし、「なぜその役割が女性である必要があるのか」「なぜその部署にさまざまな立場の人材を配置する必要があるのか」など、多様性である意義を明確化することが重要です。
ダイバーシティを取り入れる際は、達成しようとする目標に対してプラスに働くか否かまで考えられていなければ、優秀で多様な人材を集めただけに過ぎず、本末転倒になってしまいます。
ですから、適材適所で社員の能力を発揮してもらい、それを如何に成果につなげていけるかがポイントとなってきます。
ダイバーシティを導入した企業のひとつとして野村證券(野村ホールディングス株式会社)の例を考えてみましょう。
同社は2016年4月に女性、シニア、外国籍社員等、多様な社員の活躍推進を全社的に審議する機関として、野村證券にダイバーシティ&インクルージョン推進委員会を新設しました。
野村證券は、社内のダイバーシティ(多様性)を実現するための取り組みとして、
- 新卒・中途採用の社員や管理職に対してのダイバーシティ推進研修
- 野村グループ倫理規定
- 性的指向、性同一性による差別を行わないとする旨を明記
- 女性リーダー育成のためのメンタリング・プログラムの実施
など、様々な取り組みを実施しています。
ここで注目したいことは、ダイバーシティは、概念を共有して終わりではないということです。
各研修・プログラムを通じて社員同士の円滑なコミュニケーションを促すことで、そこから得られる見方や考え方をビジネスに「還元」することが期待されているのです。
ダイバーシティ実現への取り組みが、後に付加価値の高いサービスを提供する基となり多様化・複雑化する顧客ニーズへの対応を可能にしていくものであるとの考えが窺えます。
ダイバーシティの実現に不可欠なマネジメントスキル
もちろん、どの程度の多様性を求めるのかは企業ごとに異なります。
多様性をそこまで必要としなくても、十分競争力のある職業や分野もあります。
つまり、多様性を推し進めた結果、これまでと比べさらに良い成果を出せた企業が注目されているのであって、必ずしも多様性を推進している企業だけが成果を出しているわけではないのです。
また、人材が多様化すると、管理職などマネジメントをする立場の人には、社員の働き方や価値観の多様性に合わせた対応が求められます。
たとえば、時短で働く女性社員とキャリア一筋で仕事をこなす女性社員の人生観の違いや、LGBTの社員とその他の社員の理解や認識のずれなど、互いの異なる価値観を乗り越えて、共に働いてもらうためにはどうしたら良いかを考えながら、対応していかなくてはなりません。
すべての価値観を認めることは難しいとしても、個人の価値観によって、不公平感が生まれにくい制度を創出していくことが重要になります。
ダイバーシティを経営の成果につなげたいとする企業は、今後も人事制度や円滑なコミュニケーションの実現などを組織的に取り組むことが期待されます。
「何のための多様性なのか」「どのようにして成果につなげるのか」を明確にし、それを実現するための具体策や制度の改変を、働く社員の立場に立って実行し続けることが、企業側に今後求められるでしょう。