社歴が長い会社では、バブル前後に高値で不動産を購入してしまい、含み損を抱えているケースが多々あります。含み損を抱えた不動産は売却することによって、多額の繰越欠損金を作れるため、節税対策で活かすことが可能です。ただし、注意しなければ逆に損することもあるため、それら注意点にも触れながらご説明しようと思います。
固定資産の売却による節税対策は効果が大きい
今日は、固定資産の売却による節税についてご紹介したいと思います。
この節税対策を行う前提条件は、以下のとおりです。
- 急ぎではない
- 土地や建物を持っている
- 買ったときの価格より下がっている
これらが揃っていれば、条件はかなり限られているものの、ハマれば効果が大きな節税となるでしょう。
さて、社歴が長い会社さんでよく見かけるケースとして、土地や建物をいくつか所有されている場合があります。
こういった会社さんの悩みとしてよくあるのが、バブルの前後で不動産を買ってしまって、現在も引き続き持っているという状況です。
最近、東京オリンピックの影響等で地価が上がってきているとは言っても、バブルの前後はやはり圧倒的に高かったので、かなり価格が下がってしまっている(含み損を抱えている)土地や建物のほうが多いかもしれません。
そういうときは、まずその土地や建物が本当に必要なのか見直してみましょう。
固定資産を売却して行う節税・3つのメリット
不動産の要・不要を見直した結果、必要ないと判断した場合は、極力売却を検討しましょう。
「いつか価格が上がるかもしれない」という期待はあるかもしれませんが、さすがにバブル期の価格まで上がるか?といえば、その確率はかなり低いように思われます。
また、不要な不動産を売却することによって以下の効果が得られます。
- 1:固定資産税などの維持費が減る
- 2:多額の繰越欠損金を作っておける
- 3:ROAなど改善する指標がある
一つずつ、効果をまとめてみていきましょう。
固定資産税などの維持費が減る
もし、通常の建物が建っている土地であれば、その建物を維持するための修繕費や水道光熱費がかかります。
明確な目的がある場合なら良いのですが、そうでなければ、それらにかける費用は貴方へなんの役にも立ちません。
また、何もない土地であっても、最低限固定資産税はかかります。
固定資産税は課税標準額の1.4%なので、課税標準額が1億円の土地なら、140万円が毎年出ていくわけです。(住宅用地は軽減してもらえたり、市区町村によって特例があったりはします)
これらのコストを削減できるのは、大きなメリットと言えるでしょう。
多額の繰越欠損金を作っておける
「損を出す」というと響きとしてはよくありませんが、税金の計算上は損を出すことで、多額の繰越欠損金をつくっておけるというメリットもあります。
もし1億円の損が出たとしたら、今後9年間は1億円まで利益を出し放題ということです。
仮に税率を30%と見積もったとしても、1億円の損に対する税額は約3000万円。
もちろん売却収入も入りますし、以後の法人税等の負担も減り、資金繰りは格段によくなります。
「そんなことして銀行は大丈夫なの?」という疑問は後述しますね。
ROAなど改善する指標がある
企業が資本を効率よく活用して収益を出せているかを表す指標を、ROA(Return on Asstts:総資本経常利益率)と言います。
ROAは資産が少ないほどよくなります。
銀行に取ったアンケートの結果でも、ROAが良い会社はかなり評価されているのが現状です。
不要な資産を持たずに同じだけの収益を上げれば、資金調達にも好影響を及ぼします。
含み損不動産を売却する際の注意点と疑問点
とはいえ、不要な不動産の売却による節税には、いいことばかりというわけでもありません。
ここからは、注意点や疑問点として、
- 消費税をたくさん納めることになる
- そんなことして銀行は大丈夫なの?
という2つをまとめます。
注意点:消費税をたくさん納めることになる
土地と建物を売った場合、
- 土地 … 消費税がかからない(非課税)
- 建物 … 消費税がかかる(課税)
という現象が起こります。
建物をたとえば1億円で売った場合、2016年時点で言うと8%、つまり800万円の消費税がかかることになります。
もちろん、これは通常契約するときに上乗せすることになっているものではありますが、納付するときはやっぱり大変ですし、翌年の消費税の中間納付額(半年や3カ月ごとに納付するもの)も大きくなってしまいます。
また、「土地は消費税かからないから」と単純に思っていたら大間違い。
もともと消費税がかかるものしか売っていないような会社さんの場合、土地を売ったことで自分が支払った消費税を、全額引けなくなるという制度があるため、土地を売却したために納める消費税が増えることがあるのです。
疑問点:そんなことして銀行は大丈夫なの?
次に「そんなことして銀行は大丈夫なの?」という疑問が浮かびます。
メリットのほうで「多額の繰越欠損金をつくっておける」ということを挙げましたが、それはつまり大きな赤字を出すということでもあります。
銀行が融資の時に、企業を評価する指標として見るのは、ほぼ「営業利益と経常利益」です。
損益計算書のなかで言うと、この赤い四角部分ですね。
そして、土地や建物を売った場合、特別損失の「固定資産売却損益」という勘定科目を使うことになります。
この青い四角の部分ですね。
銀行が何より大切にするのは「本業で利益が出せているかどうか」「継続的に利益が出せる会社かどうか」ということです。
この特別損失はあくまで「たまたま今年は損が出ちゃいました」という意味なので、「本業できちんと利益出せてるでしょ?」ということさえはっきり示せれば、銀行からの評価はそう悪くなるものではありません。
とはいえ、一点注意していただきたいのが、どんなときでも大丈夫というわけではなく、債務超過にならないかは気にする必要があります。
債務超過というのは、貸借対照表の「純資産」がマイナスになってしまっている状態です。
赤字になるということは、
- 赤字が出る
- 純資産が減る
ということになりますので、大幅な赤字を出すことによって自己資本比率が極端に悪化しないか、債務超過にならないか、には注意した上で検討する必要があります。
含み損を抱えた不動産による節税対策・まとめ
というわけで、固定資産の売却による節税についてまとめると、以下の通りになります。
前提条件
- 急ぎではないこと
- 土地や建物を持っていること
- それらが買ったときの価格より下がっていること
固定資産を売却することによる節税効果・メリット
- 固定資産税などの維持費が減る
- 多額の繰越欠損金を作っておける
- ROAなど改善する指標がある
注意点
- 消費税をたくさん納めることになる
- 債務超過にならないかは事前に要確認
かなり限られた会社さんにしか活用できない方法ではありますが、ハマればかなり効果は大きいです。
また、これはかなり税理士の方によって見解の分かれる方法だと思いますので、検討される場合には顧問税理士さんとのご相談をおすすめいたします。