大ヒット商品となったコンビニコーヒーに対して、コンビニドーナツは未だヒットの兆しを見せていません。それでも各社はしのぎを削って、ドーナツの開発を続けています。これほど各社がドーナツにこだわる理由はどこにあるのでしょうか?コンビニ各社がドーナツに感じている2つの魅力をご紹介いたします。
コンビニ戦争でコーヒーが大ヒットした理由
突然ですが、あなたはコーヒーをどこで買うでしょうか。
私の場合ここ最近は、朝職場に行く前、そして昼食を食べて職場に戻る前に、いつもセブンイレブンに寄り、コーヒーを買うのが習慣です。
自分で言うとおこがましいのですが、コーヒーには結構うるさい方でして…家で飲む際は、自家焙煎のお店から仕入れた豆を挽き、1杯ずつコーヒーを淹れています。
日本は世界第三位のコーヒー消費大国。同じようなこだわりを持っている方は、それなりにいらっしゃると思います。
コーヒーにこだわる多くの方にとって、「缶コーヒー」は全く別の飲み物であり、どうしても、缶コーヒーをコーヒーとは認知できません。
では、スタバで毎日コーヒーを買うかというと、スタバは仕事や束の間の休息のために行くところです。
「座席の使用料としてコーヒー代を払っている」と消費者は考えているので、テイクアウトでコーヒーを買うのは、少しもったいないと考えてしまいます。
そこに現れたのがセブンイレブンのコーヒーでした。レギュラーサイズはホット・アイスともに税込100円。味もコーヒー好きが評価して、全く問題ない品質です
ちなみに、とある大学のゼミがブラインドテスト(銘柄を隠してテイスティングするテスト)をしたところ、ドトール、マック、スタバを押さえて味が一番良いと評価されたのが、セブンイレブンのコーヒーだったという研究結果もあります。
インスタントと同価格(それ以下)で、スタバより美味しいコーヒーが購入できる。この独自ポジションがコンビニコーヒーを大ヒットさせました。
セブンイレブンがコーヒーを大ヒットさせた後は、コンビニ各社も追随し、「コンビニ・コーヒー戦争」とまで言われました。
コンビニ戦争はドーナツへシフトも各社が苦戦
そして現在、コンビニ各社の主戦場は「ドーナツ戦争」にシフトしていますが、結果としてセブンイレブンをはじめ、各社なかなか苦戦しているようです。
投入直後は目新しさもあって、ある程度の販売数にはなったみたいですが、その後売上はパッとしません。
それでも、各社はドーナツから撤退せず、テコ入れに必死です。
セブン・イレブンは1月に商品構成を刷新しましたが、まだV字回復とは言い切れない様子。ローソンもスコーンを新商品として投入しました。
なぜこれほど、各社はドーナツの開発に力を入れているのでしょうか?
マーケティングの観点から考察すると、コンビニ各社が、ドーナツにこだわる2つの理由が浮かび上がってきます。
以下、提示していきます。
ドーナツはコーヒーとマッチする未開拓の商品
コンビニ各社がドーナツに力点を置く理由の一つ目に、ドーナツが日本人に非常になじみのある食べ物であり、大ヒットしたコーヒーとの相性が良いこと、なおかつ未開拓の商品であったことが上げられます。
もちろんコーヒーと相性のいい食べ物はパンやクッキー、チョコレートなど、他にも色々あるかと思いますが、従来のコンビニの棚を思い浮かべていただくと、パンもクッキーもチョコレートも既に売り場として確立しています。
対して、「ドーナツ」には、新しいアイテムとして新鮮味があるのです。
ドーナツは基本的に油で揚げる食材であり、鮮度(作ってからの時間)が味にダイレクトに影響するという特徴があります。
つまり、ミスタードーナツのような専門店のドーナツと、パンのようにパッケージ化されたドーナツでは、味に雲泥の差がありました。ドーナツは、品質の向上に大幅な余地が残された、未開拓の商品だったのです。
なおかつ、コンビニでドーナツを販売するためには、ある程度の数がさばける計算が成り立たなければなりませんが、コーヒーが大ヒットしたことにより、セット買いが計算できるドーナツの導入に踏み切ったのでしょう。
セブンイレブンの1店舗あたりコーヒーの平均販売数は1日120杯だそうですが、そのほとんどがコーヒーだけを買っていました。
せっかくこれだけの数のお客さん(多くはサラリーマンの男性)が来店してるにも関わらず、これではその機会を活かせていません。
コンビニビジネスの基本はいかに「ついで買い」をしてもらうかにありますので、その対象としてドーナツのようなポテンシャルを持つ商品は、なかなかないのです。
商品特性が他のヒット商品売上を邪魔しない
次に、ドーナツにコンビニ各社が固執する2つ目の理由は、ドーナツの商品特性、つまりドーナツが「おやつ」ということにあります。
コンビニのピーク時間帯は朝9時前後、昼12時前後です。
この時間帯、オフィス街のコンビニのレジには、朝食・昼食を買うサラリーマンやOLで毎日行列ができますが、それ以外の時間帯の店内は比較的空いており、ほとんどレジに人が並ぶこともありません。
私も朝と昼にセブンイレブンに寄りますが、この時間帯はコーヒー1杯を買うのに並ぶ羽目になるため、基本的にはこれらのピーク時間帯を外します。
比較的時間に縛られない働き方をしているなら、ピーク時間は外せますが、一般的なサラリーマンやOLの方は並ぶと分かっていても、その時間に店舗に行かざるをえないでしょう。
ここにドーナツという、コーヒーと抱き合わせ販売が可能な商品を投入することにより、ピーク時間帯以外(主に午後3時頃)の購入を促すことができると考えられます。
レジの処理能力や店舗の棚面積は限られており、この限界値を引き上げるのは容易ではありません。
そこで「ピークではない時間帯の売上をいかに引き上げるか」が、コンビニのマーケティングを考える上では重要になります。
ドーナツは基本的にはおやつであり、単価の高い昼食でメインに食する人は殆どいないでしょうから、昼食後の谷間の時間帯の売上増に貢献することが期待できます。
更に、既存のパンやおにぎりといったコンビニの主力商品ともバッティングしないため、売上の純増が見込めるのです。
セブンイレブンの商品開発担当者はここまで考えた上で、ドーナツを投入しているはずです。
これほどコーヒーとマッチし、売上が純増につながる商品は、そうそうないのです。
目新しさが落ち着いたこれからが各社の本番
さて、先述の通り、コンビニ各社でドーナツが苦戦している現状を、各社はどのように打破する必要があるのでしょうか?
売上が下がる理由は、リピートされなかったことにあります。つまり、味が顧客の期待値を下回ったことが、販売不振の明らかな原因です。
とはいえ、コンビニ各社にとって、新境地のドーナツ販売。目新しさも落ち着いてきた今、本格的に味(品質)で圧倒的な品質を実現することが、ドーナツ戦争で生き残る鍵となります。
誰にどのようなアプローチでドーナツを販売するのかで、商品構成も全く変わることでしょう。
商品開発力で勝るセブンイレブンか、スイーツには定評のあるローソンか、他社との提携が得意なファミリーマートか、ドーナツ戦争の行方はまだまだこれからです。
Photo credit: “KIUKO” via Visualhunt.com / CC BY-ND