報道によれば歌手で俳優の杉良太郎さんが、大動脈弁狭窄症のため心臓手術を受けられました。大動脈弁狭窄症は60歳前後から徐々に増え、80歳から急増する病気で、主に加齢と動脈硬化によるものと考えられています。この病気のやっかいなところは、重症になると突然死することです。もしも症状が発見された時にはどのような対応をしたら良いのか、心臓外科のプロフェッショナルが解説してくださいます。
杉良太郎さんが大動脈弁狭窄症で入院と手術
報道によれば歌手で俳優の杉良太郎さんが、大動脈弁狭窄症のため心臓手術を受けられました。
TBSの大ヒットドラマ・下町ロケットでも帝国重工の会長役としてご活躍されていただけに、とてもショッキングな出来事です。
ドラマの後半「ガウディ編」では、私自身が専門分野の1つとしている、心臓の人工弁についてもストーリーに取り込まれていただけに人事と思えません。
この病気は油断できない性質があり、かつ年輩の方には比較的多いこともあって注意が必要です。
以下は日刊スポーツWEB版記事からの抜粋です。
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杉良太郎が大動脈弁狭窄症手術 経過良好、年内退院
[2015年12月19日8時37分]歌手の俳優杉良太郎(71)が、心臓からの血流が悪くなる大動脈弁狭窄(きょうさく)症の手術を都内の病院で15日に受けていたことが19日、分かった。所属事務所が認めた。
手術は成功し、術後の経過も良好。年内には退院できる見込みという。
8月に肺炎で入院した際に心不全と診断され、人工弁置換手術を行うことを決めたという。
杉は現在、TBS系ドラマ「下町ロケット」(日曜午後9時)に、帝国重工社長・藤間秀樹役で出演中だが収録は既に終了。放送に影響はない。
番組はくしくも置換手術を受けた心臓の人工弁開発がテーマになっている。
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大動脈弁狭窄症は加齢と動脈硬化が主な要因
大動脈弁狭窄症は60歳前後から徐々に増え、80歳から急増する病気で、主に加齢と動脈硬化によるものと考えられています。
中には二尖弁という生まれた時からの病気の悪化によるタイプもありますが、それは比較的少数です。
この病気のやっかいなところは、重症になると突然死することです。
突然死まで行かずとも失神発作が起こることがあり、それがクルマの運転中や電車のホームの上であれば大事故を招いて死亡することもあり、やはり危険な病気と言わねばなりません。
杉さんの場合もこうした状況を考えられたようで、ドラマ「下町ロケット」の重要な撮影が終わり次第、心臓手術を受けておられます。
賢明な方針であったものと拝察されます。
ではどうすればこうした病気による問題を未然に防げるのでしょうか。
大動脈弁狭窄症の症状と発見時の賢明な対応策
まず予防ができればそれが一番なのですが、現在までのところ、大動脈弁狭窄症の予防の決め手はありません。
せいぜい減塩、高血圧やコレステロールその他の動脈硬化の原因を抑える、などの「周辺整備」にとどまります。
そこで現実には早期発見、早期治療で大惨事にならないうちに治してしまうというのが賢明な策と申せましょう。
そのためには、大動脈弁狭窄症の症状に注意することと、定期検診を毎年受けることが勧められます。
症状としては
- 1.胸痛
- 2.息切れ
- 3.失神発作
が代表的です。
これらのうち一つでもあればかかりつけ医か循環器内科医に相談されると良いでしょう。
そのために日ごろから信頼できるかかりつけ医を持っておくことをお勧めします。
定期検診については通常の心電図や胸部レントゲンもある程度役立ちますが、心エコー図検査を受けることをお勧めします。
熟練チームの心エコー図によって大動脈弁狭窄症は一発でわかり、それ以外の心臓病もかなり見つけることができます。
狭心症などの冠動脈疾患はエコーではわからないことがありますが、それでも手がかりをつかめることはあります。
弁膜症や心筋症・心不全などはエコーでほとんどわかります。その段階で心臓の専門家に相談すれば良いわけです。
オールラウンドな医師をかかりつけに持とう
なお上記のかかりつけ医につきまして、さまざまな病気をカバーしてくれるオールラウンドな医師がベストです。
そのためとくに心臓に詳しいという必要はなく、胸でも腹でも背中や手足でも何でも診てくれて、「これはおかしい」と気づき、速やかにその病気の専門家に紹介してくれる、こんな医師がかかりつけ医として理想的です。
節約社長の読者の皆様はこうしたかかりつけ医をお持ちの方が多いものと拝察しますが、もし転居その他の理由で現在かかりつけ医をお持ちでない方がおられましたら、ぜひ持たれることをお勧めします。
そのようにして大動脈弁狭窄症は比較的早期に発見可能ですし、少なくとも症状が出た段階で速やかに診断できるでしょう。
大動脈弁狭窄症は早期診断・治療で徹底対処
大動脈弁狭窄症が比較的軽いうちは定期検診やお薬による治療、あまり無理をし過ぎないなどの生活上の注意で対処できます。
重症になれば心臓手術が必要となります。
弁が硬くなっていることが多いことと、ある程度以上の年輩の方が多いため、弁形成よりも人工弁による大動脈弁置換術が適応となることが一般的です。
手術は胸の真ん中にある胸骨を縦に切って中に入り、心臓の中の弁を取り換える形で進みます。
一部の専門施設ではポートアクセスあるいはMICS(ミックス)で骨を切らずに、右脇下の小さい傷跡で大動脈弁置換術ができ、その場合、仕事復帰はかなり早くなります。
超高齢の方や余病などのために心臓手術を受ける体力がない場合には、カテーテルによって胸を切らずに折りたたんだ人工弁を心臓の中にいれる「TAVI(タビ)」という方法もあります。
これはまだ脳梗塞が起こりやすい、あるいは人工弁の長期耐久性が不明などの問題があり、手術が安全にできない方に限定されています。
大動脈弁狭窄症は油断すると恐ろしい病気です。
しかし早期診断、早期治療、そのためのかかりつけ医や定期検診などの活用で対処できる病気です。
こうした「治せる病気」でいのちを落とすことのないようにしたいものです。
杉さんの一日も早い全快と仕事復帰を願うとともに、読者の皆様の安全な健康管理にこの記事が役立てば幸いです。