つい勢いで「社長である俺の言うことが聞けないならお前はクビだ!明日から会社へ来るな!」と言ってしまった翌日、本音じゃなかったのに社員が「クビ発言」を真に受けて解雇の有効を訴えてきたとしたら…「解雇した側」の社長から解雇の無効を主張することはできず『解雇は有効』として取り扱うべきだと解釈されてしまいます。人事権を持つ者は常に発言に気をつける必要があります。
従業員へのクビ発言が思わぬ事態へ向かう…
人であれば誰しも時には感情的になるもので、たとえ経営者であってもそれは変わりません。
何らかの事情でイライラしているときに、社員へ当たる形となってしまった経験がある方も多いのではないでしょうか?
しかし、その当たった言い方が時として大事を起こす可能性があることも私達は忘れてはいけません。
仕事上、従業員と口論になった際、他のことでイライラしていたこともあり、つい勢いで「社長である俺の言うことが聞けないならお前はクビだ!明日から会社へ来るな!」と言ってしまったとしましょう。
もちろん、貴方の言葉に本意はなく、本当につい、とっさで言葉が出てしまったのです。
普通なら、その後、ベッドで頭を冷やして反省し、翌日出社して来た従業員に何食わぬ顔で仕事を言い付けてやり過ごしたり、一言「言い過ぎた」と謝罪の趣旨を込めた言葉を添えて「クビ発言」を撤回しておけば、昨日のことは何事もなかったかのように流れていくかもしれません。
ところがどっこい、クビ発言の翌日に出社した従業員が、覚悟を決めた態度で解雇に応じる旨を伝え、「解雇予告の手当て」や退職金(退職金規程がある場合)などを会社に請求してきたとしたら…
さて、目も当てられない事態となってしまいました。どうすれば良いのでしょうか?
従業員が解雇の有効を訴えれば会社は負ける
つい言ってしまったクビ発言は法律でどのように判断されるものなのでしょうか?
労働契約法第16条(解雇)では、『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。』とあります。
つまり、上記の事例が社長の「解雇権の濫用」だと見なされれば、職権濫用された従業員は「解雇の無効」を訴えることが“できる”と解釈されるのです。
社員がこれで収まればよいのですが、もともとイヤイヤ会社に務めており、ここぞとばかりに解雇無効を主張せず、従業員に認められている正当な権利を請求する場合があります。
この場合は「解雇した側」の社長から解雇の無効を主張することはできない、『解雇は有効』として取り扱うべきだと解釈されます。
労働基準法によって、従業員は手厚く保護される立場に立っていることなど、法の主旨に照らせば経営者は不利な立場に立たされるのです。
従って従業員が解雇の有効を訴えてきた場合、この解雇通知は即時解雇とされ、平均賃金の「30日分(以上)」の予告手当を支払わなければならなくなってしまいます。
たった一言の「クビ発言」でも、一旦大きく壊れた関係を修復して請求を撤回してもらうために、会社は相当な労力を要することになってしまいます。
これは社長以外の者であっても、職務中と見られる時間に、人事権限を有する者が言い渡した解雇であれば、従業員(部下)が解雇の有効を訴えれば、必ず同じ結果になります。
人事権を持つ者は不用意な発言に常々注意せよ
いかがだったでしょうか?
たった一言の「お前はクビ」という発言も、従業員との関係次第では会社を思わぬ悪い方向へ向かわせてしまうことがあります。
発した言葉を撤回する際の言い訳の見苦しさや権威が失墜する様は、昨今の政治家等でご承知のとおりです。
人事権を持つ者、特に社長は自らの不用意な発言に十分注意すべきであると言えます。