退職金を払う・払わないに関しては、原則として会社(雇用者)の自由となっている。ただし、終身雇用制度が崩れ、転職が当たり前となった現代社会においては、雇用する側にも、雇用される側にも、現行の退職金制度が陳腐化しくことは目に見えている。20年後に向けて、今雇われる側が起こすべき行動とは何なのだろうか?
退職金制度は労基法で明確な取り決めがない
リーマン・ショック時に世界全体が不景気となった時、大手企業で退職金の制度を辞める事態が多発した。
殆どの人が退職金を積み立てていたのを、全額解約して積立金に上乗せして受け取る事態になった。
意外かもしれないが、労働基準法では退職金についての取り決めが存在しない。
このため退職金を払う・払わないに関しては、原則として会社(雇用者)の自由となっている。
これから数十年先、退職金制度はどうなっていくのであろうか?
雇用する側もされる側も矛盾感じる退職金制度
サラリーマンにとって、生涯で最も大きな金額の報酬を得られるはずだった退職金制度。
しかしこの制度が成り立つのは、定年までコツコツと同じ会社で勤めあげる前提が存在していたからであり、既に過去の良き時代のモノとなりつつある。
これまでの制度では、退職金の上昇カーブが勤続年数に比例し、20年~30年前後に大きく跳ね上がるようになっていた。
若いうちは会社に報酬以上の貢献を果たし、その「貸し」の部分を後から退職金で回収するシステムが成り立ったからだ。
長期終身雇用が当たり前だった時代にはそれでもよかったのだが、それに対して、現在では長期終身雇用自体がほぼ崩壊しており、更には転職が当たり前となったため、このシステムは働く側にとっても不都合な制度になりつつある。
もし、自分が転職などで会社を辞めたとしたら、退職金を幾らもらえるのか、はっきりと答えられる若者は少ない。
このような社会的背景の元、「退職金はいずれなくなる方向にあります」と言うのは、日本企業の賃金制度に詳しい、労働経済アナリストの意見だ。
雇用される側は自ら資産運用をする必要がある
2000年代前後から、退職金制度に手厚い保護を与えていた大手企業でも、抜本的な見直しが始まっている。
その代表例の一つが、松下電器(現パナソニック)によって98年に導入された「退職金前払い制度」であり、退職金の1年分に相当する金額を、その都度ボーナスに上乗せして受け取るというものだ。
この制度には、企業側から見て、退職金支払いのツケを、将来に回さなくて済むメリットがある。
「遠い先のことなんかわからない。将来のリスクは覚悟するから、それより今、もらっておいたほうが得だ」という若手従業員の意識にも、ある程度合致した制度である。
ほかにも、退職金の一部を「401k」など確定拠出型年金に充当する制度や、勤続年数だけでなく、在職期間中の能力の格付けで支給額が変わる「ポイント方式退職金制度」があるが、これらの制度を利用して受け取るお金の多い少ないは、雇われる側の裁量や能力に左右される傾向を持つ。
最近の退職金制度の見直し理由を聞いた調査でも、「年功重視から能力・業績重視に改めた」とする企業が2割以上あったことは、もはや横並びの退職金制度が無くなることを意味する。
これらの事実が雇われる側に示唆することは、既存の退職金制度はもはや無きものと考えた方が良いこと、自ら老後に備えた積極的な資産運用を行わねばならないという現実である。