グーグルが会話の文脈を理解する会話検索をiOSに提供開始しています。しかし、それはあまりパッとしたものではありません。マイクロソフトのコルタナなどの人工知能のほうが性能は数倍上です。グーグルの弱点は、これまで構築した資産であるグーグル検索にこだわるところです。人工知能が台頭する未来に向け、どのようなプラットフォームが台頭しても良いようにフラットな視点を持つ必要があります。
グーグルがパーソナルアシスタントを提供開始
グーグルがパーソナルアシスタント時代に向けて動き出しました。
“Google’s iOS App Now Provides Context-Aware Conversational Search Functionality is imperfect, but useful, and does more than Siri can do.”
『グーグルが会話の文脈を理解する会話検索をiOSに提供開始:機能は完璧ではな無いものの、Siri以上の事が出来るようになった』
(Search Engine Land 2015年8月14日 )
この記事によるとグーグルユーザー向けに提供しているグーグルというアプリに、人工知能機能を実装したということです。
どのような機能かというとアイフォンユーザーがグーグルというアプリを起動して、観光地の名前で検索した後に、ホームボタンを押して口頭で「XXXXで一番良いホテルはどこ?」と質問をすると、その答えが検索結果として表示されるということです。
一見大したことは思えませんが、これまでのテキスト検索よりは少し便利になったようです。
グーグルの弱点はグーグル検索で成功したこと
グーグルの弱点は、これまで構築した資産であるグーグル検索にこだわるところです。今回の機能もこれまでのウェブ検索に毛が生えただけのようなものに感じられます。
何故検索に拘るかというと検索ビジネスで成功したからでしょう。いわゆる「成功の呪い」というものです。
過去の成功体験に囚われるために全く新しい世界に飛び出すことは得ることよりも、失うリスクがあるのでどうしても賢い人達ほどそれが出来ないものです。
しかし、検索ビジネスにおいて、完全に負けたBingを運営するマイクロソフトには何も失うものはありません。
以前の記事でもご紹介した、Windows10英版や、WindowsPhone英語版に実装された、コルタナというパーソナルアシスタントを紹介した動画をYouTubeでご覧下さい。
この動画ではSiri、グーグルNow、コルタナというパーソナルアシスタントに同じ質問を投げかけて、それぞれがどうユーザーを助けるかを検証しています。
現在のところグーグルのパーソナルアシスタントであるグーグルNowが一番優れているということは決してありません。
Siriやコルタナのほうが見やすかったり動作が早い時が多いのです。
サービスの普及を成功するのに一番大事なタイミングは初動です。
普及段階に入った時に最高レベルのプロダクトを持っていれば、そのプロダクトは先行者利得を得て、そのマーケットを支配する可能性が増します。
検索ビジネスで負けたマイクロソフトは終わった勝負を捨てて、次のパーソナルアシスタントという人工知能のフィールドにチャレンジを始めました。
コルタナを何としてでも普及させるためにもWindows10を無償化したのではないでしょうか?
ドラえもんのような人工知能が台頭する未来
ところで、ウェブ検索エンジンとパーソナルアシスタントの違いは何でしょうか?
それらの最大の違いは・・・
- 【ウェブ検索エンジン】検索結果から自分の頭脳で判断してウェブページを選び出す
- 【パーソナルアシスタント】ユーザーの意図と好みを理解して1つだけ答えを出す
というものです。
また、ウェブ検索エンジンはパーソナルアシスタントの1つのパーツでしかなく、ユーザーが検索するのを待っている受け身のソフトでしかありません。
一方、パーソナルアシスタントは、ウェブ検索以外にもツイッター、フェイスブックなどのソーシャルメディアアプリや、地図アプリ、天気予報アプリ、計算機アプリなど様々な情報ソースから情報を収集することが出来ます。
また、ユーザーが検索という面倒な行為をしなくても、ユーザーの状況や気分を察して情報を必要としていそうなタイミングでタイムリーに提案という形で情報提供が出来ます。
そうなってくると、パーソナルアシスタントというのは、誰もがスマホさえ持っていれば保有できる「個人的な秘書ロボット」になるはずです。
そしてこの個人的な秘書ロボットは既ににアイフォンのSiriやマイクロソフトのコルタナがしているように、ユーザーの話し相手になってくれたり、歌が聞きたければその時の気分にあった歌を歌ってもくれます。
もうそうなると個人的な秘書ロボットという段階を超えて友達にすらなるかもしれません。
そこまでいけば誰もが実態の無い「ドラえもん」のような凄い友達を持つようなことになるはずです。
すでに物質的実態のあるロボットが販売され、人気を博しています。それはソフトバンクがこの夏に発売したペッパーです。
その顔はドラえもんというよりは鉄腕アトムに近いですが、足りないのは脚くらいのものでかなりの話し相手になってくれるそうです。
人工知能競争に負ければグーグルも下請けに
こうした世界になってきたときに今のグーグルはどうなるのでしょうか?
それは、家電業界で日本が下請けメーカーのような立場になったように、あのグーグルも1つのコンテンツプロバイダーという下請けになる可能性があるということです。
無論こうした状況を避けるために、Googleは必死で持ち金を使いM&Aという手段を駆使して、人工知能技術を持っている企業を買収する動きに出ています。
もしもこの人工知能開発競争に負けたら、その時こそ「Googleが人工知能に敗北する日」が来るはずです。
楽天などIT企業もグーグル頼みから脱却の動き
しかし話はここで終わりません。
なぜなら、もし私達がグーグルのウェブ検索エンジンという1ツールに集客を依存していたら、私達の会社もグーグルと一緒に共倒れになるからです。
では私達サイト運営者はどうすればよいのでしょうか?
それはグーグルだけに囚われるのではなく、視野をグーグル以外の企業の取り組みにまで広げる事です。
その兆候を表すニュースが8月に報道されました。それは・・・
『楽天は、8月19日、Android(TM) OS向けのアプリストア「楽天アプリ市場」のサービスを開始した。同ストアでは、約180社のアプリ開発者が提供する、「楽天アプリ市場」限定アプリを含む約390タイトルのアプリを取り扱っている(※8月18日時点の数字)。
「楽天アプリ市場」の大きな特徴は、ストア内の支払いやアプリ内における課金に「楽天スーパーポイント」を利用できるだけでなく、支払い金額に応じて通常の10倍のポイントを獲得できること(※購入額100円毎に、「楽天スーパーポイント」を通常の10倍に当たる10ポイントを付与。一部のアプリは対象外)』
(Social Game Info 2015年08月20日)
この楽天の動きは、明らかにグーグルアンドロイドが支配するアンドロイドアプリ市場を、アマゾンのように独自のアプリストアを楽天が立ち上げて、グーグル経済圏から逃れるための動きです。
楽天は着々と駒をすすめています。それは以下のような動きです。
- 楽天市場で格安スマホ「楽天モバイル」を発売する
- ラインのようなメッセージアプリのバイバーを買収、アマゾン・キンドルの対向するためにKoboを買収
- 楽天スーパーポイントの価値を高めるためローソンと提携
などの動きです。
グーグルが未だ提供していないポイントという武器にレバレッジをかけて、楽天はモバイル市場の川上から川下までを攻めようとしています。
楽天も現在、パーソナルアシスタントには関心を持っていることでしょう。
あのフェイスブックも動き出しています。それは・・・
『フェイスブックは、ニューヨーク・シリコンヴァレーのオフィス間を跨ぐAIチームを結成し、さらにフランスはパリに、新たなAI研究所を開設する。ヨーロッパには、彼らAIに注力する北米企業が欲しがる「AI人材」が眠っているのだという。』
(WIRED.jp 2015.6.3 )
フェイスブックというグーグルの5分の1の年商を稼ぐ、もう一つのインターネットプラットフォームにおいて、ユーザーを人工知能を使い囲いこもうとしているようです。
今後私達は楽天、ソフトバンク、マイクロソフト、フェイスブック、アマゾン、アップル等の動きにも目を配り、機会を見つけたら活用する必要があるはずです。
ようやく、グーグル一極の世界から多極的な世界に時間が戻る可能性が出てきました。
しかし、その先にはまた新たな支配者が登場することでしょう。
一つだけ確かなことは、私達はもはや立ち止まることは許されないという事です。