今後のインターネット販売の方向性を示唆する2つのニュースが、7月初日に報道されました。アマゾンとパナソニックがインターネットで住宅のリフォームサービスを販売することになったのです。BMWが新車をインターネット販売するなど、大手企業は成長余地のある数少ない市場としてインターネットで高額商品の販売に躍起になりはじめています。
ネットでは低単価商品しか売れなかった過去
今後のネット販売の方向性を示唆する2つのニュースが、7月初日に報道されました。
『アマゾンジャパン(東京・目黒)は30日、積水ハウスなどと組みリフォームサービスの販売を始めた。キッチンや浴室、トイレなど計5千種類以上を扱い、価格は商品代に交換や取り付けなどの工事費を含めて定額で表示する。一般のリフォームサービスで手間がかかる見積もり作業などがなく、予算に応じてネットで手軽に申し込める。』
『パナソニックは7月から個人向けの中古住宅の仲介事業を始める。中古物件ごとにリフォームの提案を組み合わせて紹介するウェブサイトを立ち上げる。同社の強みであるシステムキッチンや浴室といった住設機器などの情報も提供し、顧客ニーズにきめ細かく対応する。』
以上、2つの記事です。
20年近く前に始まったネット販売の世界では、アマゾンも書籍やCD等の販売など、低単価商材からスタートしました。
当時、インターネットで商品を購入すると騙されるリスクが高く、お金を払っても商品が届かない等のトラブルもあり、消費者はネットで商品を購入することに躊躇していました。
テレビや新聞などのオールドメディアはネットの危険性を大きく報道して、「インターネットでモノを買う行動」に対する恐怖は増幅されていきました。
しかしこれらは既に過去の概念となっています。
住宅から車までインターネットで売れる時代
徐々にインターネットでの商品購入に慣れてきた消費者は、時間と共に「より高い単価の商品」を購入するようになりました。
一般の消費者にとって最も高い買い物、それは恐らく自動車や住宅です。
今年の4月1日には「「BMW、アマゾンで新車 電気自動車「i3」、潜在需要を掘り起こし」というニュースが報道されました。
新車、しかも価格が高い外車を物販サイトでいきなり販売するこの動きも、ネット商材の高単価化の流れにあるものです。
そして今回のアマゾンとパナソニックによる、リフォームという住宅関連商材という高額な商材をネットで販売するニュースです。
これらの高額商材に関する報道には2つの重要なポイントがあると思います。
- (1)大手企業のネット販売市場の参入
- (2)高い商品を売るための消費者視点の工夫
という2つのポイントです。以下、噛み砕いて説明します。
(1)大手企業のネット販売市場の参入
これは最近特に強まっている傾向です。
大手企業の場合、以前はネットを使わなくても一定の売上と成長をすることが出来ました。
しかし少子高齢化、消費税増税をきっかけにした消費不況、大手企業や公務員以外の所得の減少等により、リアルの世界だけではその売上と成長を維持出来なくなってきたというトレンドが生じています。
一時的に、東京オリンピックやアベノミクスなどによる景気刺激策により息抜きは出来たとしても、長期トレンドとしては国内経済は縮小に向かっています。
そうした中、大手企業が生きるために出来ることは、海外市場進出の他には、ネット市場進出くらいしか選択肢はなくなってきています。
その結果、それまで大手企業がほとんど存在感の無かったネット市場において、近年のモバイル時代をきっかけに本格的なネット市場への参入が起きてきています。
以前はパソコンを持っている少数の人達だけが販売先で、魅力があまりなかったネット市場は、子供からお年寄りまでが個人的に所有するスマートフォンやタブレット等のモバイル機器の普及、並びにネット接続費の下落により急拡大しました。
結果、リアル市場とほどんと同じ規模の、とても魅力的なマーケットがインターネット上に生まれました。
このトレンドがダイレクトに影響を及ぼすのが、これまで比較的平和にネット市場で自社の立ち位置を築き上げてきた、中小企業・個人企業です。
(2)高い商品を売るための消費者視点の工夫
アマゾンジャパンと今回提携した積水ハウスは、これまで不透明だった総額のリフォーム費用を明確化して、総費用を明確に表示するようにしました。
その結果、隠れた費用の無い明瞭会計による住宅リフォームの申し込みが可能になり、消費者は安心して住宅リフォームをネットで申し込めるようになりました。
これは高い商品でも、消費者がネットで申し込みしやすくするための工夫です。
また、外車をアマゾンで販売するBMWはいきなりサイト上で契約を消費者に迫りません。
『購入者にはBMWのコールセンターから連絡が入り、購入に伴う正式な書類をやりとりする。支払いは5年契約のローンやリースを選ぶ。ローンの場合は頭金の99万円のみアマゾンが回収し、その後の支払いはBMW関連会社などと進める』
(2015/4/1 日経新聞電子版)というように申し込みがしやすくなるための配慮がされています。
高額商品をネットで売れるチャンスが生じた
私達がこれらのニュースから学べることとは何でしょうか?
これまで「インターネットで高い商品は売れない」と諦めてきた企業の方は、諦めるのではなくこうした工夫を参考にして、消費者がより気軽にアクションを起こせる配慮を考案すべきです。
確かに、大手企業が相次いでネット市場に本格参入する現実は、これまで平和にネット販売をやってきた中小・個人企業には厳しい現実です。
しかし、これをきっかけに売上の維持・拡大のために思い切って、高単価の商材を取り扱って見てはどうでしょうか?
10万円の商品を100個売れば1000万円の売上ですが、500万円の商品を2個売れば同じ売上を達成できます。
人員も、設備も大手企業に比べれば限られている中小・個人企業であればこそ、少数の顧客に「より深いサービス」を提供することによって、客単価が飛躍的に伸びる可能性があります。
そして、それを可能にするためには消費者の心理的抵抗、心理的負担を軽減する販売方法と、経済的負担を軽減するためのローンの活用や助成金の取得のサポート等の工夫がサイト内に必要とされます。
インターネットというものが存在する限り、ネット販売の世界に終わりはなく、信じられないスピードで変化が起きます。
このネット商材の高単価化というトレンドを座って見過ごすのではなく、自社の飛躍のチャンスにするためにも一度考えて見て下さい。