目の前のアイテムを一瞬で現金に変えられるアプリ「CASH」を運営する株式会社バンクが、創業8ヶ月でDMMに70億円で買収されたという衝撃の報道が先週ありました。実は、このようにほとんど実績のない、売上のない企業が大金で買収される際には、3つの共通項が見られます。M&Aのプロフェッショナルによる解説です。
DMMが売上未知数のCASHを70億円で買収!
目の前のアイテムを一瞬で現金に変えられるアプリ「CASH」を運営する株式会社バンクが、創業8ヶ月でDMMに70億円で買収されたという衝撃の報道が先週ありました。
CASHは6月末のサービスローンチ後、16時間で13億円超のキャッシュ化を実現し、あまりにもサービス申込が入りキャパシティオーバーとなり、2ヶ月ほどサービスを停止したことで大きな話題を呼びました。
とはいえ、同社の売上はまだ未知数、システムも脆弱です。なぜDMMは70億円もの価値を同社のサービスに見出したのでしょうか。
実は、このようにほとんど実績のない、売上のない企業が大金で買収されるときは共通項があります。以下解説していきましょう。
条件1:サービスに大きな需要が見込まれること
1つ目の共通項は、買収した企業にお金を潤沢に注ぎ込めば、大幅な売上増が見込めると、買収側に算段させるサービスであることです。
今回のCASHはサービスイン直後からサービスを停止せざるを得ないなど、即時キャッシュ化に大きな需要(市場)があることを見せつけるサービスでした。
DMMの2017年2月期決算は売上1,823億円。純利益も毎年100億円以上残していると報道されていることから、同社に潤沢な買収資金があることは容易に想像がつきます。
70億円は大金ですが、DMMにとってみれば、これで会社がたちゆかなくなるほどの金額ではない、悪いところを探すよりも、大きな市場を手に入れるため、この機会に一気に買収することを優先した、ということだと思います。
条件2:買収側にサービスの問題点を解決できる能力があること
もう1点、実績も無いのに買収額が跳ね上がる買収劇の共通項は、買収側が売却側の抱えている問題を解決できる豊富な経験を持っていることです。
CASHは物凄い申込の中、サービス体制を確保できずサービスを一度ストップしたり、将来的にはビジネスの法的リスクもクリアする必要がある、いわば問題山積みのサービスでもあります。
しかしDMMは、アダルトコンテンツの提供のみならず、ゲーム会社、証券会社も有しており、個別の消費者対応について同じような法的問題を解決しながら会社を大きくしてきた、圧倒的な経験を有しています。
既に同社の会員数は2,700万人を数えていますが、CASHを取り込むことで、さらに集客ができると踏んでいるはずです。
過去の自分達がそうであったように、まだ不備が沢山あるものの大きな需要を生み出すサービスについて、あら捜しのようなデューデリジェンスをしても意味がないと考えたことでしょう。
いわゆるキレイな大手一流企業では、このような買収は成し得なかったかもしれません。
条件3:トップが迅速に買収・売却の判断ができること
もう1つ大切なことは、買収がトップの迅速な意思決定のもとに行われることです。
今回の買収劇も、DMM亀山社長が直接FBメッセンジャーでアプローチし、口頭ベースの合意に達するまでの期間は僅か5日間だったということです。
特にIT系ではこうした直接アプローチが有効です。
逆に売却を目指す経営者は、売却希望先がはっきりしている場合には、先方を待つだけでなく、自ら積極的にアプローチしていく姿勢が非常に大切になります。
今回のCASHの買収事例のように売却金額が跳ねる際は、
- サービスに大きな需要が見込まれること
- 買収側にサービスの問題点を解決できる能力があること
- トップが迅速に買収・売却の判断ができること
という3つの共通項があります。
exitを狙う企業の皆さんには、ぜひこういったパターンを逆算して、自らの行動指針とされることをオススメします。