日曜ドラマ「陸王」で、主人公の宮本社長(役所弘司)たちがソールを作る際に必要とする理想の高性能素材「シルクレイ」を巡り、死蔵特許というキーワードが注目されました。死蔵特許とはどのような権利なのでしょうか?活用する際に発生する2つのリスクも踏まえてご説明いたします。
日曜ドラマ「陸王」で着目された「死蔵特許」
読者の皆様の中でも、日曜ドラマ「陸王」をご覧になっている方は結構いらっしゃるのではないでしょうか?
「陸王」は、名も無き小さな足袋屋「こはぜや」が、様々な困難を経て全く未知の領域であるランニングシューズ業界に飛び込み、「陸王」という最高のシューズを作るまでの道のりを描くヒューマンドラマです。
毎回波乱が起こり、その過程で主人公たちはピンチをチャンスに変え、成長していきます。
第二話ではマラソンシューズを作る過程で、主人公の宮本社長(役所弘司)たちがソールを作る際に理想の高性能素材「シルクレイ」を見つけたものの、この素材が死蔵特許となっており、特許保有者の飯山(寺尾聰)に使用をお願いするも、飯山に追い返されるすったもんだがありました。
最終的に飯山はシルクレイの使用をこはぜやに許可し、陸王を作るこはぜやチームのメンバーとなり、チームは更に強力な陣容を構えるまでになりました。
さて、この回で注目を浴びた「死蔵特許」とはどのようなものなのでしょうか?
死蔵特許を使うメリットや、使う際の注意点を踏まえながらご説明したいと思います。
「死蔵特許」って何?管理し忘れてたら特許は消滅する
「死蔵特許」とは、有効な特許でありながら、権利者がその存在を管理し忘れているものであると言われています。
特許の権利者は、年金というものを特許庁に納付する義務があります。といっても、ここで言う年金とは、私達が通常支払う国民年金保険料とは全く別物です。
年金は、毎年毎年決められた金額を納付しなければならず、毎年納付することから「年金」と呼ばれているものです。
この年金の納付を行わなかった場合、特許は有効期間の残りがあっても消滅するという仕組みになっているので、特許を維持するためには毎年、年金を納付するという管理が必要となってきます。
死蔵特許は、「権利者がその存在を管理し忘れて」とあるので、通常このような場合は、年金の納付も忘れてしまい、特許は消滅します。
しかし、「陸王」本編では、飯山が特許権を主張していることから、何らかの形で飯山は年金を納付し続け、特許を維持していたことが伺えます。
死蔵特許を活用しようとすると発生する2つのリスク
死蔵特許は、他社がその特許を侵害しても警告しないことから、他社が気づかないまま使用し、後になり何らかのきっかけで発見され、問題になります。
どのような問題でしょうか。
特許には、2つの大きな効力があります。
一つは差止請求、もう一つは損害賠償請求です。
1.差止請求
権利者は、死蔵特許を使用する他社に対し、特許を使用した製品の製造や販売を中止せよ、と要求することができます。
「陸王」本編でも、権利者である飯山は、宮沢に対し「シルクレイを使用した」シューズを製造してはならない、と要求しました。
つまり、こはぜやは死蔵特許を使いたいのに「シルクレイ」を使用してシューズを作ることができないという問題を抱えますが、これは差止請求の問題になります。
また、死蔵特許だと知らずにこれを使用して、既に長年市場で製品を販売し、例えば、その製品が企業のブランドとして認知されている場合は、製品のの製造や販売を中止せよという要求があれば、企業にとって大きな打撃となるでしょう。
2.損害賠償請求
権利者は、死蔵特許を使用する他社に対し、製品の売上に応じた賠償金を支払え、と要求することができます。
ただし、本編では、まだ開発中(売上がない)のため、損害賠償請求は意味がありません。
しかし、死蔵特許を侵害しても権利者が警告しないことから、他社が気づかないまま既に長年市場で製品を販売し続けた場合に、ある日突然権利者から損害賠償を請求されると、長年の販売により得られた総売上に応じた賠償金を支払わなければならなくなります。
損害賠償請求の消滅時効は3年ですから、3年分の売上が対象になると思われるかもしれませんが、権利者が他社の侵害に気付かなかった場合は、過去最大20年遡ることになります。
特許権の有効期間が最長で20年ですから、最大で20年分の売上が対象になることも理論的にはあり得ます。
もしある日突然、20年間の売上に応じた損害賠償を要求されることを考えると、実に恐ろしいです。
死蔵特許と似た「休眠特許」とは
このように、死蔵特許を知らずのうちに使用することには大きなリスクがあります。
「陸王」の場合は、死蔵特許の保有者である飯山がチームに入ることで、この問題をクリアしましたが、現実には死蔵特許を知らずに利用してしまったことが原因で、会社間のトラブルが数々起こっています。
最後になりますが、死蔵特許と似たもので「休眠特許」というものについてもご紹介しましょう。
「休眠特許」は、権利者がその特許を管理しているものの、実際の製品には使用されていない未利用の特許を言います。
死蔵特許との違いは、権利者が管理をしているかどうかです。
この「休眠特許」、どれぐらいの割合で存在するかというと、特許庁の最新の統計によれば、2015年度では、有効な1,624,596件の特許のうち848,238件が休眠特許となっており、全体の実に52%もの割合となっています。
これら眠れる資産が、ドラマのように使いたい人たちによって有効活用されるようになれば、日本は今以上に経済発展が見込めるのではないでしょうか。