退職理由には「自己都合」と「会社都合」の2種類があります。辞める社員ができるだけ失業保険について多くの給付を望む場合は、会社都合のほうが受給金額や受給期間の面で有利です。何らかの理由で経営者も会社都合で社員に失業保険を給付させてあげたいと望むとしたら、そうすることにはリスクがあります。前もって知識として得る必要があるでしょう。
自己都合退職の社員が退職理由を会社都合にしてくれと言ってきた
退職には「自己都合」と「会社都合」の2種類がありますが、2つの退職には以下のような違いがあります。
自己都合
労働者側が、転職、結婚、妊娠、出産、引っ越し、など自分の都合や事情を理由に退職を届け出る場合
会社都合
会社側が業績不振、倒産、リストラクチャリングなどを理由に、労働者との間で結んだ労働契約を解除した場合。早期退職優遇制度などに応じた労働者が退職する場合
どちらの理由で退職するにしても、労働者は一定の条件を満たす場合に、雇用保険から一定期間に渡り失業等給付(以下、失業保険)を受けることが可能です。
失業等給付は、雇用保険への加入期間と離職理由によって給付される日数が異なります。
離職理由の観点から見ると、自己都合退職するより会社都合で退職する場合の方が、失業保険の給付を受けられる日数は多くなります。
また、自己都合で退職する場合には、退職してから3か月間、失業等給付を受取ることができない給付制限が設けられます。
対して、会社都合の離職の場合には給付制限がありません。
これらの理由により、失業保険をもらいたい労働者にとっては、離職理由が会社都合の方が圧倒的に有利と言えます。
もし、あなたの会社を退職しようとする社員が、「雇用保険の退職理由を、自己都合退職ではなく会社都合の退職にしてほしい」と言ってきたらどうでしょう?
己の都合でモノを言ってくる、はっきり言えばこれから用のない社員の申し出なら、断る経営者が多いことでしょう。
しかし、その社員がこれまで会社に貢献してきた人材であり、独立を将来の目的としている場合など、今後もつながりを持ち続けるため、応援の気持ちも込めて、会社都合の退職にしてあげようと考える方もいるかもしれません。
退職理由を偽っても会社にペナルティは無いが違法行為に加担することになる
結論から言うと、退職理由が会社都合であったとしても、会社に特別なペナルティが課せられることはありません。
解雇したからという理由で翌年の雇用保険料が上がることもありません。
こういった事実を知った上で、「社員に有利になるなら」と離職理由を会社都合に変えることに同意してもいいかな、と思われる経営者の方もいることでしょう。
ただし、これは明確な法律違反行為となりますので絶対に行ってはいけません。
そもそも離職理由は、選ぶものではなく必然的に決まるものであり、失業等給付の給付日数は全ての失業者に対して公平な計算の元に決められるものです。
本来は自己都合退職なのを会社都合退職に偽ることは、もらうことができなかった失業等給付を不正に受給する違法行為です。
不正受給するのは労働者本人ですが、会社はその不正に加担したこととなってしまいます。
可能性は確かに低いのですが、もしも不正受給がバレた場合、元社員は失業保険が停止となるのはもちろん、給付金の一部返還、違約金の支払いなど散々な目に会います。
どうしても会社都合にしてあげたいなら踏まえるべきリスク
これらを踏まえてもなお、社員の退職理由を自己都合から会社都合に変えてあげたいと思うなら、正直な話、社長を止めることはできません。
ただし、会社都合で労働者を退職させる場合には、その他の制度においてデメリットが生じることだけは踏まえておいてください。
雇用保険制度の一環として行われている助成金の殆どは、離職理由が会社都合であった場合に、利用を制限する条件が規定として記載されています。
利用できるはずだった助成金を利用できなくなってしまうのは、会社にとっては大きなデメリットと言えます。
また、離職理由を解雇等の会社都合としてしまった場合には、解雇予告手当の支払い可能性が生じることも念のため頭に入れておいてください。
「元社員からのお願いだから、そんなことは考えられない」と思われるかと思います。
確かに可能性としても少ないのかもしれませんが、経営者である自分が考えているように、元社員が「自分を思ってくれている」わけでない場合もあります。
世の中には悲しい話ですが、今までの恩を仇で返し、平気で裏切る人間もいますから、これらのリスクも踏まえた上で決断してください。
繰返しになりますが、そもそも論として、離職理由を偽って雇用保険の手続きを取ることは、たとえ社員のためと考えていても不正行為です。
自分のことしか考えずに会社都合にしろと言う人間を突っぱねるのはもちろん、自分が経営者として会社都合にしてあげたくても、これら多くのリスクがあることは絶対に忘れないでほしいです。