のれん分け制度とは、「長年勤めた従業員(従来の奉公人含め)に店舗の商号の使用・販売権を許可し、独立させる制度」のことを言います。フランチャイズ制度との違いは、「対象が第3者を含むのか含まないのか」という部分であり、近年では名称や仕組みを独自の形にして運用される事例も多くなっています。制度の導入メリットを含め詳細を解説します。
「のれん分け制度」と「フランチャイズ制度」は何がどう違うの?
今日は、古くて新しい「のれん分け制度」についてご紹介します。
私どもガルベラパートナーズは、店舗ビジネスを手がける方々向けに、「フランチャイズ制度」や「のれん分け制度」の導入を数多くお手伝いしております。
オーナー様からよく聴かれる質問の1つが、フランチャイズ制度とのれん分け制度はどこが違うのか?というものです。
たしかに、2つの制度がどのようなものか、パッと聞かれると明解に理解している人は少ないもの。
古臭い言葉に聞こえる方もいるのか、のれん分け制度の進化版がフランチャイズ制度とおっしゃる方もいますが、それは違います。
では、2つの制度はそもそもどの部分が違うのでしょうか?
のれん分け制度とは、「長年勤めた従業員(従来の奉公人含め)に店舗の商号の使用・販売権を許可し、独立させる制度」のことを言います。
フランチャイズ制度とは、「内部・外部を問わず親会社が第三者と契約を結び、店舗の商号の使用・販売権を許可し運営させる制度」のことを言います。
つまり、のれん分け制度とフランチャイズ制度は、「対象が第3者を含むのか含まないのか」という部分が大きく違うだけで、同義語として考えることが可能な制度なのです。
のれん分け制度の歴史・制度が出来上がった背景
次に、のれん分け制度の歴史をご紹介しようと思います。
のれん分け制度は江戸時代から続く古い商制度です。
たとば、古くからのお店やメーカーの門にかかる「のれん」には、必ずと言ってよいほど家紋や屋号が書かれていますよね。
これら長年運営される企業の「のれん」には、ノウハウや仕入れ先、ブランド(歴史がある、有名など)、地理的関係など、商売を継続し利益を得るために必要な信頼がつまっています。
制度が始まったばかりの頃には、今のような年金制度や終身雇用制度はありませんでしたから、一定年数勤めあげることを目標とする奉公人のモチベーションの源、退職金代わりの制度として活用されてきました。
「のれんに傷が付く」という言葉も、この家紋や屋号についた「信用や名声等を損なうこと」から生まれた言葉です。
のれん分けは、修行してその店と同じ屋号で店舗を出すというケースが多いことからも、上記で記載した「のれんに傷が付く」のような考え方が生まれたのかもしれません。
古くて新しい「のれん分け制度」の導入メリット
ラーメン店などの飲食店で多く聞かれる「のれん分け」ですが、近年は経営上の課題をご解決する方法として多くの企業で導入されるようになりました。
CoCo壱番屋の「ブルームシステム」や、餃子の王将の「のれんチャイズ」に代表されるように、名称や仕組みを独自の形にして運用される事例も珍しくありません。
なぜ、この古くからある制度を多くの企業が導入しているのか?
単刀直入に言うと、のれん分け制度は人材不足を解決させ、従業員教育の一助ともなり、更には事業拡大を支える武器となるからです。
サービス業の世界に飛び込む従業員は、元々の志として将来独立したいと考えていることが多いものです。
ところが、人手不足で悩むサービス業において、近年優秀な人材は集まりにくい傾向があり、確立されたのれん分け制度を運用できているか否かが、大きな分水嶺となっています。
優秀な人材が独立できるところまで育てば、そのまま店舗をのれん分けし、店舗数を拡大させることが容易になります。
私どもも、中堅・中小企業の多店舗展開の方法として「のれん分け」を最も有効な手段の1つと考えております。
制度の導入メリットは大きいが実際の運用は難しい
ただし実際にのれん分け制度を運用し始めても、「のれんに傷を付ける」行為や「経営方針の違い」などの問題で、のれん分け後に喧嘩別れの「分裂」をしてしまうケースも珍しくありません。
直近のトラブル例だと、みなさんもご存知の有名ラーメン店「大勝軒」の事例を思い起こされることでしょう。
参考リンク:大勝軒“分裂抗争300日抗争”でクーデター派が勝利宣言!
のれん分け制度は古くからある制度である一方、より高度な運用を求められる制度なのです。
たとえば、のれん分け制度を社内フランチャイズのような形で行うのであれば、フランチャイズ契約書が必要になります。
これを作成するには、「中小小売商業振興法」及び「中小小売商業振興法施行規則」と「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」に基づく、法定開示書の高度な知識への理解が必要です。また、法務知識だけでなく、税務や労務、知的財産権など様々な分野への知識も要求されます。
これら複雑な問題を解決し、のれん分け制度を成功させるには、私どものような国家資格者が集まる専門家集団が制度構築に携わること必要があります。
「人材不足」「従業員教育」にお悩みの企業様には、のれん分け制度を導入することをぜひ検討していただき、日本で長い歴史を築くことができる企業となることを目標としていただければ嬉しいです。
Photo credit: M.Murakami via Visualhunt.com / CC BY-SA