企業経営者の悩みは、事業規模の違い、業種業態の違い、個別環境の違いにより、悩みの内容もそれぞれ異なります。しかし、どんな経営者であっても最後に必ず悩む問題があります。それは、事業承継の問題です。そこで本稿は、代表的な5つの事業承継パターンをご紹介します。早い段階から事業承継を自分事として捉える経営者ほど円滑な事業承継を行えるでしょう。
経営者の悩みは尽きず〜最終の悩みは事業承継
私どもは、会社の経営全般(税務・労務・法務・経営コンサルティング)を、アーリーステージの会社さんから、上場会社さんにいたるまでサポートさせていただいております。
そこで感じることは、経営者にはステージ毎で常に悩みごとがつきまとっているという現実です。
事業規模の違いにより、悩みの内容もそれぞれ異なりますが、段階別では次のようなことで悩まれているケースが多いようです。
創業から間もなく規模が小さい第一ステージの段階では、売上、広告採用に悩み、少し規模が大きくなると、計画的な予算組みや節税対策など会計処理で悩み始めるようになります。
第二ステージでは、規模が拡大することにより、会社がどんどん自分のものではなく、働く社員全員のもの、地域社会の公共的な器となっていきます。
資金調達のあり方も、銀行など金融機関からの借り入れメインから、取引先からの増資、投資家からの新株予約権付転換社債などが多様化していくことでしょう。
この頃の悩みは、会社が自分の手からどんどん離れていくことにより、株主、社債権者、金融機関などのステークホルダー(利害関係者)への対応が増えることです。
ここまで来ると、社員もある程度増え、社内教育が充実し、人が育ちはじめます。
また、信用がついてきて、お客様に好印象を与えることもできます。また、上場の準備をし始めるのもこの頃になるかと思われます。
そして、更なるステージ、最終的に“あがり”を迎える経営者の方が悩まれるのは「事業承継」の問題です。
最終的には、どんな業績であれ、どんな会社規模であれ、経営者がみな悩むことになるのが、この事業承継という問題です。
とはいえ、「事業承継」と一口に言っても、それぞれの状況に応じて様々な事業承継のやり方があります。
事業承継のあり方〜代表的な5つのパターン
それでは、「事業承継」にはどのようなパターンがあるのか、代表的な5つのパターンをご紹介しましょう。
1)後継者への承継
保有株を親族へ贈与、売却、相続(遺贈)という形で承継してもらうことになります。
ご子息が複数人いる場合は、会社を分割(分社化)して、それぞれを承継させる方もいらっしゃいます。
2)オーナー(大抵は創業者)から現経営陣への株式売却
すでに経営を他人に委ねている場合は、MBO(マネジメント・バイ・アウト)という手法で承継するケースもあります。
この事業承継のメリットは、競合他社への機密漏洩を防ぐことができる点です。
社内で育てた生え抜き社員に任せるケースで、この手法を使われる経営者の方は多いです。
3)M&A
M&Aとは、『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略ですが、要は売り手企業と買い手企業の結婚のようなものです。
通常は両者の間に仲介業者が入って、買収手続の公平性・遵法性をチェックします。
業界大手だと、日本M&Aセンター、GCAサヴィアンなどの会社が仲介業者に該当します。
業績の良い会社の場合は比較的買い手が尽きやすいですが、業績の悪化した会社の場合は、あまり満足な買い手が付かないケースが多いです。
ただし、業績が悪化していてもビジネスモデルの親和性が高い場合は、債務カットを条件に買収が成立することもあります。
4)株式上場
ある程度規模が拡大して、利益も出ている場合に選択される事業承継の手法が実は株式公開です。
会社に資産がある場合、株式を相続する親族が多額の相続税を支払わねばなりませんが、経営者の資産の大半が株式である場合、支払の現金にこまることがあります。
この際に、株式上場することで、まとまった売却資金を手にすることが可能となり、相続対策となるからです。
ただし、株式上場のためには社内の不正防止措置や諸規定を定めるなど、コンプライアンス規定の整備に時間がかかります。
従って、この事業承継対策を取るならば、早期の取り掛かりが必要です。
5)会社清算
手塩にかけた会社がなくなってしまうのは寂しいことですが、売却先が見つからなかったり、所有不動産の税負担を軽減したい場合などには、この方法をとることがあります。
近年では、このパターンにより、承継問題をクリアする企業が増えています。
経営者なら最後は必ず悩む事業承継〜対策に早すぎることはない
まだ、若い経営者の方で、意気揚々と仕事をされているうちは、そこまで事業承継の問題が現実的に思えなかったりするかもしれません。
しかし、先述の通り、どんな会社の経営者であっても、「会社と自分のお別れ」というものが最後には必ず訪れます。
私共も、事業承継の問題について上記の様々なケースで経営者の皆様からご相談をいただき、数百件の問題を解決してまいりました。
サポートさせていただいた経験から一つだけ言えることは、事業承継の問題に取り組むのに「早すぎることはない」ということです。
早くから取り組まれた経営者の方ほど、納得の行く形で事業承継の問題をクリアされています。
ぜひ、事業承継を自分事として捉え、いつの日か訪れるその時を、笑顔で迎えられるよう前向きな準備を始めるのはいかがですか?