事業売却の売り手側に共通した気持ち、それは「1円でも高く事業を売却したい」というものです。この時、少しでも良い相手へ売却しようと思うと、どうしても事業の良いところだけを見せて、悪いところを包み隠したい誘惑に駆られガチになります。誘惑に負けた後になって発覚した誤った情報や隠蔽された事実は致命傷。取引自体が消滅するのがオチとなります。
少しでも高く事業売却したい経営者を襲う誘惑
事業売却しようと思う場合、誰もが「少しでも高く事業・会社を売りたい」と考えるものです。
無事に事業売却を成功させる要因は何個かありますが、とにかく外せない重要なポイントの1つに、「アドバイザーに数字・内情含めて全てをオープンにする」ということがあります。
ところが、人の性(さが)というのは非常につまされるところがあり、事業売却を決意した経営者の多くが、「事業の良いところだけを見せて、悪いところは包み隠す」誘惑にさらされます。
確かに理解できる部分はあります。
男女の恋愛にたとえて考えても、意中の相手にアプローチしようとする時は、どうしても良い部分を見せて、欠点は見せないようにするのが普通です。
ところが、この“よかれと思った”行為が、事業売却においては致命的な失敗要因となってしまいます。その理由についてご説明しましょう。
事業売却時は買い手へ十分精査された情報を渡す必要がある
いざ事業売却を請け負ったM&Aアドバイザーは、売り物となる事業の精査、売り込みに大切な資料作りを始めることになります。
交渉が進んでくると、買い手が質問し、調査することは大抵決まっていますので、そこに対する準備をするわけです。
ですから、この業界で最大手の日本M&Aセンターは、事業売却を請け負った際に着手金すら取りますが、この着手金は対象会社の精査、資料作りに充当されています。
ブレーク(破談)になることが無いようにするため、十分な時間とコストをかける必要があるからです。
着手金をとらないアドバイザーも、当然このような作業はします。
財務情報に始まり、人事、営業、その他の情報を売り手からお聞きし、集めて、整理します。
正確な情報を提供することで、買収を望む最適な買い手を見つけることが可能になるからです。
もちろん、買い手もこれらの事情は知ってますから、アドバイザーが提供する資料には、大きな信頼性が寄せられます。
後になって発覚する悪い情報は致命傷となる
ところが、この段階で情報が不十分であったり、間違っていたりすると、あとでしっぺ返しがきます。
例えば、この段階で正しくない財務情報を、事業売却を目指す経営者がアドバイザーに出したとします。
アドバイザーは、その財務情報をベースに売却希望金額やその他諸条件を決めます。交渉が進んで、デュー・ディリジェンスで、そのことが分かったらどうでしょうか?
金額を下げれば済む話とはなりません。
そんな重要な情報が間違っていた、あるいは売り手が教えてくれなかったとなれば、やっと見つけた買い手の信用は100%失われます。
50、70%失うという話ではありません。間違った情報、教えなかった情報が、事業売却では致命傷になるのです。
散々、時間をかけた後にそんな結末は誰も迎えたくないはずです。それを避けるためには、良いことも悪いことも含めて、全てをM&Aアドバイザーに話していただきたいのです。
私自身も、全てを打ち明けていただけるアドバイザーと認められるよう、日々心がけて参ります。