大手企業における未払残業代の支払問題がニュースで頻繁に報道されるようになりました。しかし、これらは氷山の一角であり、支払い能力の乏しい中小企業でも、多くの未払残業代が発生しています。仮に労基署の命により未払残業代が確定すれば、支払は拒否出来ません。更に支払い時には会社にも従業員にも多くの手間が発生し…未払残業代を発生させることには何一つ良いなど無いのです。
未払残業代は労基署の命を受ければ支払いを拒否できない
ヤマト運輸や関西電力、エイベックス、過労死で問題となった電通でも、多額の未払残業代で問題となっています。
とはいえ、発覚した未払残業代は氷山の一角です。
特に中小企業では残業代をきちんと計算していなかったり、サービス残業が常態的になっていたりと、問題が放置されてしまっているところが多いと思われます。
「残業代なんか支払ってたら会社がもたない」「そんなことやってる会社のほうが少ないでしょう」とおっしゃる経営者も多いのですが、従業員は思った以上に残業代に対してシビアです。
手書きで勤怠メモをつけたり、毎月タイムカードやシステムから証拠画像を取ったりと、いざという時に備えているのが現実です。
仮に残業代の未払が発覚した場合、労働基準監督署からの命令により、会社側には必ず未払残業代の支払義務が発生します。
未払の残業代を指摘されてしまった場合、会社と従業員にはどんな手間が生じるのでしょうか?
未払残業代の支払で会社と従業員それぞれに発生する手間
未払残業代の支払い方には大きく分けて2種類あります。
- ①一時金として支払う
- ②過年度の給与として支払う
という2通りの支払い方法です。
以下、未払残業代の支払が決定した場合、会社と従業員それぞれにどのような手間が生じるか説明します。
会社に生じる手間
①の一時金として支払った場合、支払った年度の賞与として取り扱います。
会社は賞与として社会保険料や源泉所得税などを計算したうえ、その旨会計処理します。
②の過年度の給与として支払う場合、全てさかのぼって給与計算をやり直す必要があります。
この場合、雇用保険料や源泉所得税はもちろん、未払残業代が4月~6月にかかっていれば、社会保険の算定基礎届、その他昇給月によっては月額変更届が必要になり、社会保険料にまで影響が出てきます。
もちろん、労働保険料の申告や年末調整も再計算をし、再提出することになります。
再計算したうえで、本人から徴収しなくてはいけない金額は、未払残業代を支払う際にまとめて天引きし、源泉税は原則としてその翌月10日までに納税します。
但し、会計上はさかのぼって決算をやり直す必要はなく、全て当年度に取り込めばOKです。
従業員に生じる手間
一方、受け取る従業員側にも手間が発生する場合があります。一時金として受け取った場合は原則として、当年度の年末調整で所得税が精算されます。
ただし、当年度の給与・賞与の合計が2,000万円を超えたり、すでに退社している場合には確定申告が必要になります。
また当年度を扶養の範囲内で働こうとしていたとすると、残業代の支払で扶養から外れてしまう可能性が出てきます。
過年度分として受け取る場合でも、同様の問題が出てきます。
さらに過年度で扶養から外れてしまうと、扶養していた側でも年末調整あるいは確定申告のやり直しが必要になります。
また、住民税が後からまとめて請求されますので、特に既に退社してしまっている人は、入ってきたお金をある程度残しておかないと、住民税が払えないという事態になりかねません。
未払残業代を発生させること自体に何一つ良いことが無い
このように会社と従業員それぞれに生じる手間を見ると、会社側の負担は当たり前ですが、従業員は本来なら生じるはずのなかった手間を取らされることになります。
確定申告、扶養控除から外れる、追加住民税の支払に当てるお金の確保…これらは、会社都合のとんだとばっちりでしかありません。
従業員が既に退社しているならば第三者への悪評を流され、社内にいるとすればモチベーションがダウンすることは免れられません。
お金や手間が余計にかかるのはもちろん、社の雰囲気など見えないところに影響を与える未払残業代など、作らないに越したことがありません。