就業規則で、同じ相対的記載事項(作るか作らないかは企業が決めて良いルール)として記載される、退職金と賞与。両者は従業員のモチベーションを大きく左右する報奨ですが、その重みには天と地の差があります。退職金には「勤務期間」に応じた功労報奨、賞与には「成果」に連動した報奨という全く違った意味合いがあり、廃止の難易度が違うからです。
絶対的記載事項と相対的記載事項の違いとは?
パート・アルバイトを含めて常時10人以上の従業員が勤務する会社は、労働基準法によって就業規則を労働基準監督署へ提出することを義務付けられています。
就業規則には大きく分けると、
- 絶対的記載事項:必ず明記することを求められる会社の取り決め
- 相対的記載事項:記載するか否かは会社が自由に判断できる取り決め
という2つの事項が記載されます。
絶対的記載事項は、就業時間、給料、退職に関する取り決めなど、いわば会社の中で絶対に守るべきルールのことを指します。
一方で、相対的記載事項は、退職金、賞与、食費・作業用品、職業訓練、災害補償、表彰・制裁など、二次要求的ルールを指します。
同じ相対的記載事項でも退職金と賞与の重みには天地の差がある
さて、相対的記載事項の中でも従業員が重視する項目に、退職金と賞与に関する規定があります。
退職金も賞与も取り決めを儲けなければ、使用者が従業員に提供する義務は生じません。
しかし、同じ相対的記載事項であっても、両者の重みは全く違います。
賞与の場合は元々が任意のものですし、支払の意味合いが会社の業績など「成果」と連動する側面が強いため、支払い方法を会社側がある程度自由に定めることができます。
但し書きを入れて、「経営状況によっては賞与を支払わない」と規定したなら、業績の悪い期に支払わなくても全く問題ありません。
一方で、退職金も同じように設定は任意のものですが、「働いた期間に応じた功労報奨」としての意味合いが強いものです。
会社側がその時々の状況で、退職金を支払う支払わないと変更するならば、退職金が支給される従業員もいれば、支給されない従業員も出てきてしまうので、平等さを欠いてしまいます。
従って、退職金は一度支払うと決めたら、会社側がその義務を果たさねばならなくなりません。
現在、このような退職金の意味合いゆえに、退職金支払で資金繰りに悩む企業が増えているのも現実です。
退職金を減額したり廃止するのは困難なこと
では、退職金の支払は絶対に廃止できないものか?と言われれば、絶対にそうだというわけではありません。
退職金の減額又は退職金制度の廃止を行う場合、従業員にとって重大な不利益変更となりますので、従業員の合意を得ることで、減額や廃止を行うことが可能です。
また、従業員の同意が得られない場合に、退職金を減額又は制度を廃止するだけの合理的な理由があれば、裁判等で争って認められる場合があります。
ただし、求められる合理的な理由や裁判にかかる期間・費用は、非常にハードルの高いものです。
これらに鑑みて、退職金制度を導入しようと考える経営者様には、必ず冷静かつ慎重な検討をお勧めしています。