あるところに菓子メーカーとして起業したAさんと、文房具メーカーとして起業したBさんがいました。Aさんはリンゴ飴にペンを付けて菓子で「アッポーペン」の商標を取得、Bさんはペンにリンゴ飴を付けて文房具で「アッポーペン」の商標を取得。両者は後日その事実をお互いに知ります。果たして勝つのはどちらでしょうか?
PPAPで商標登録争いが起きる原因を考えよう
Youtubeを見ると、ピコ太郎さんのミュージック動画「PPAP」について、国境を越えて様々なアレンジバージョンが作られていることに驚きます。
遅まきながら、ピコ太郎をテーマに記事を書いて欲しいと振られたので、私の職業で何かできないかまじめに考えてみます。
こういうのは深く考えるよりも、即興で思いついたものの方がよかったりしますので、パッと思いつきでいってみたいと思います。
商標登録のお話です。
「アッポーペン」の商標を異業種2社が同時取得
あるところに、起業を志した2人の若者AさんとBさんがいました。
2人はそれぞれ会社を立ち上げ、独自のアイデアをもとに商品を意欲的に開発し、それぞれの業界で売り出しました。
Aさんは菓子メーカーとして、Bさんは文房具メーカーとしての出発です。
2人とも、商品が売れるようにと、商品に対する思いを込めて商品に名前を付けました。
その名は「アッポーペン」です。
まず、菓子メーカーのAさんは、自社の商品コンセプトについてこう考えました。
リンゴ飴というのは、食べたら棒が残る。
棒は捨てるしかないが、それではもったいない。
じゃあ、こうしてはどうだろうか。
棒は割り箸ではなく、ペンにしよう。
そうしたら、食べながらメモもできるし、食べた後も捨てずに使える。
うん、これはいい。
ということで、リンゴ飴の棒をペンにした商品を売り出すことにしました。
その名前に「アッポーペン」を付け、商標登録を取得することを専門家に相談に行きました。
専門家は、こう言います。
その商品は「リンゴ飴」だから「菓子」の商標として取得するとよい。
こう言われ、Aさんは「菓子」について商標「アッポーペン」を取得しました。
めでたく商標を取得し、安心してお菓子「アッポーペン」を販売することができるようになりました。
AさんもBさんも同じ商標で違う商品が販売されてビックリ
同じ頃、文房具メーカーのBさんは、自社の商品コンセプトについてこう考えました。
消しゴム付きペンというのは、消しゴムが付いているが、案外ペンに付いている消しゴムって小さくて使いづらく、逆に授業中とかに消しゴムをかじったりしてよくないんだよね。
じゃあ、こうしてはどうだろうか。
消しゴムではなく、リンゴ飴にしよう。
そうしたら、授業中とかに消しゴムではなく、リンゴ飴がかじれるので身体にもよいし、糖分も頭に回って勉強に集中できる。
リンゴ飴を簡単に交換できるようにすれば、消しゴム付きペンより売れるかも。
うん、これはいい。
ということで、消しゴム付きペンの消しゴムをリンゴ飴にした商品を売り出すことにしました。
その名前に「アッポーペン」を付け、商標登録を取得することを専門家に相談に行きました。
専門家は、こう言います。
その商品は「ペン」だから「文房具」の商標として取得するとよい。
こう言われ、Bさんは「文房具」について商標「アッポーペン」を取得しました。
Bさんはめでたく商標を取得し、安心して文房具「アッポーペン」を販売することができるようになりました。
ほどなくして、世間の別の話題とも相まって、商品の売れ行きが順調な菓子メーカーのAさんが文房具屋を訪れたところ、なんと、自社と同じような商品が、自社と同じ「アッポーペン」という商品名で売られているではないですか。
文房具メーカーを立ち上げたBさんにも同様の驚きがありました。菓子屋を訪れたところ、なんと、自社と同じような商品が自社と同じ商品名で売っているからです。
さぁ、なんとなく雲行きが怪しくなってきましたね。
同じ商標でも消費者が混同しなければ2つの商標は同時に認められる
皆さんの予想通り、2人は互いに警告書を出します。
商標登録をした「アッポーペン」を使ってはならない、と。
ところが、よくよく見てみると、2人はそれぞれが申請した商標登録が別物だったことに気が付きます。
Aさんは「菓子」についての商標登録を行い、Bさんは、「文房具」についての商標登録を行っています。
商標登録は、商品が異なれば同じ商標(ネーミング)でも登録が可能な制度になっています。
皆様もよくご存じの例では、「辞書」について商標「クラウン」は三省堂が、「自動車」について商標「クラウン」はトヨタがそれぞれ商標登録を取得しています。
消費者が同じ商標を見て、間違わなければそれでいいからです。
菓子を買いに行こうと思って、間違って文房具を買ってしまう人はいないでしょう。
逆もまた然りです。
これらの理由により、同じ名前でも商品が違えば、差し支えないと考えるのが商標制度なのです。
商標制度は個別の事情を考慮して設計されていない
制度(法律)というのは、「商品が異なれば間違わないよね?」という一般的な事情しか考慮されません。
しかし、今回のケースに当てはめたらどうでしょうか。
リンゴ飴の棒をペンにした商品と、消しゴム付きペンの消しゴムをリンゴ飴にした商品に同じ「アッポーペン」が使われた場合、必ずしも同じ答えになるでしょうか。
大切なことは、「制度は、一般的な事情を考慮して設計されており、個別の事情を考慮して設計はされていない」ということを知っておくことです。
裁判では、個別の事情に法律を当てはめて解決します。
制度の趣旨からみて妥当かどうか?の議論をぶつけ合いながら結論を導きます。
しかし、ビジネスではそれを期待するのではなく、制度を自分のビジネスにうまく利用することを考える方が有益です。
今回の例え話で起こった事件でも、彼らは制度をどのように利用すればよかったか、ということをちょっと考えてみてください。
以上、ピコ太郎のネタを通じて商標制度の仕組みをお伝えしてみました。
制度は期待するのではなく利用するもの、そして商標登録を取得するときは何の商品について取得するかが大事、というお話でした。