現アップルCEOティム・クック氏が、自らが同性愛者であることを告白したことは、ビジネスの世界で性の多様性について考える一つの契機になりました。その一方で、LGBTの方々の大半は、未だに性的指向で差別を受けることをおそれ、自分を偽らざるを得ず苦しんでいるのが現状です。企業は彼らにどのような職場環境を与えられるのか?LGBT問題に取り組み始めた事例と共にご説明します。
職場でなお偏見の目にさらされるLGBTの人々
「結婚は男性と女性がするもの」これまでの一般的な社会常識はこのようなものかもしれません。
その一方で、成長の過程で同性に興味を抱くことや、自分の性に対する違和感に気づく方が沢山いらっしゃることも事実です。
近年、各メディアにおいても、LGBTの特集が組まれるなどして注目され始めています。
特に、現アップルCEOであるティム・クック氏が、2014年に自らが同性愛者であることを告白し、これが大きく報じられたことは、ビジネスの世界で性の多様性について考える一つの契機になりました。
とはいえ、そうした世の関心とは裏腹に職場では、その性的指向で差別を受けることを恐れて、当事者がありのままの自分を偽らなければならない状態が続いています。
そこで本稿は、
- LGBTの方々は日々どのような思いを抱きながら働いているのか?
- 企業側はその当事者である社員に対し、どのような職場環境を提供することが可能なのか?
について、例を交えながら考えていきたいと思います。
LGBTとは?性同一性障害より広いその概念
まず、LGBTがどのような人々を指す言葉なのか、ご説明しましょう。
LGBTとは、
- L=レズビアン:女性同性愛者
- G=ゲイ:男性同性愛者
- B=バイセクシュアル:両性愛者
- T=トランスジェンダー:生まれたときに法律的/社会的に割り当てられた性別とは異なる性別を生きる人
を表す言葉の頭文字を取り、性的少数者を限定的に指した総称です。
ちなみに、トランスジェンダーは、心の性別と体の性別が一致しない人のことを指す医学上の診断名「性同一性障害」よりも広い概念で、当事者が自分達の生き方にプライドを持ち、名乗るときに好んで使われることが多い言葉です。
また、電通ダイバーシティ・ラボの「LGBT調査2015」によると、2015年4月時点で全国69,989名を対象に、セクシュアルマイノリティの調査を実施した結果、LGBTを自認する人は全体の7.6%に及びます。
つまり、職場に100人の人がいたら、そのうち7〜8人はLGBTの人達だという統計が出ているのです。
少数派ではありますが、決して無視してはいけないオピニオン発信者達だと言えるのではないでしょうか?
LGBT当事者に立ちはだかる職場における困難
それでは、具体的にLGBT当事者たちは職場でどのような困難を体験しているのでしょうか。
以下、ほんの一部ですが事例を列挙します。
- 採用時エントリーシートの性別記載欄に男・女の選択肢以外がない
- 社内方針にLGBTへの対応が明文化されていない
- 性別に関係なく使えるトイレが設置されていない・設置数が少ない
- 性別変更に関する人事部と配属先の上司のサポートが不十分
もちろん、この他にも、まだ見過ごされてしまっているLGBTの方が苦慮している問題は多くあります。
ただし、これらの事例を見るだけでも、採用や就業において私たちの多くが当たり前のように受け入れてきたことが、LGBT当事者のアイデンティティーを苦しめる原因となっていることに気がつけます。
LGBTに対して配慮する3つの企業〜その取り組み事例
こうしたLGBT当事者の職場を取り巻く環境を築くため、企業側も様々な取り組みを進めています。
株式会社笑美面
老人ホーム紹介サービスを運営する株式会社笑美面(えみめん)は、LGBTの若者就労支援に取り組んでいます。
介護事業者には、LGBTの人々を雇用する上での何を配慮するべきか?といった研修を行い、職場の環境整備を促すことによって、人材不足の介護施設とLGBTの人々をマッチングする機会を創出しています。
日本IBM株式会社
コンピューター関連サービスのIBMは、社員が配偶者と同じと考える同性のパートナーを登録する「IBMパートナー登録制度」を独自に新設しています。
パートナーを事前に登録することで、必要な時に特別有給休暇や赴任時の手当、慶弔金などの福利厚生や人事制度について、パートナーを配偶者と同等の扱いにできるようにしています。
第一生命保険株式会社
同社は昨年度から全社員対象に、LGBTの理解促進を図る研修を実施するほか、2016年度より社員向けの「LGBT相談窓口」を設置する等の取組みを行っています。
これらの取り組みを通じて「多様な価値観を尊重し、活躍できる社内風土を醸成することを目指します。」と発表しています。
価値観の違いを乗り越えることはLGBT以外の問題解決にも繋がる
こうしたLGBTに対する企業の取り組みは今後も増えていくと考えられます。
LGBT当事者は企業側にカミングアウトし、企業側に受けいれられることで、精神的負担の軽減と生産性の向上が期待される一方、企業としてはその成果を適切に評価することが重要となってきます。
人は時として価値観が異なることで、互いに衝突したり傷つけてしまうものです。
しかし、たとえ価値観が異なったとしても、「この会社を大きくしたい」「もっと素晴らしい商品を作り出したい」など、同じゴールを共有する仲間とみなせば、差別や偏見はとても陳腐なものになります。
社員同士が互いの違いや個性を尊重し合うことはLGBTに限ったことではありません。
障害者・外国人・働き方等の多様化に合わせ、職場環境も当事者の立場に配慮した具体策を講じていくことが、これから更に求められることでしょう。
LGBTへの企業の取り組みが、セクシュアルマイノリティの理解を促進するものではなく、偏見を加速するものであってはなりません。
企業側は、一方的に制度を提供するのではなく、当事者の声も取り入れた制度や環境づくりを提供していく必要があります。