多くの企業では、「知的財産は特許を取れば守れる」と考えられています。ノウハウのまま社内に抱えていてはダメだという声も多いようです。しかし、特許は取ると同時に公開されるのが原則であり、特許を取ることはライバル企業との争いが始まることを意味します。特許とノウハウを全く別物として切り分けて考えることにより、知的財産は守られます。
ノウハウか特許かの選択判断で命運は変わる
A社の社員「当社でも、商品を販売したあとに、これ特許で出しとかないといけなかったんじゃないの?って思うようなアイデアがあります。なかなか販売前に見極めるって難しいですね」
私「それって、御社にとって秘密にした方がいいノウハウかもしれません。特許にしなくてよかったかもですよ」
これは以前、とある食品会社の社員の方と私が会話した内容の一部です。
なかなか分かりにくいかもしれませんが、この会話内容は知的財産の活用を考える上で、非常に重要な示唆を含んでいます。
それは、「ノウハウと取得する知的財産(特許)の切り分け」を、企業は明確に行わねばならないということです。
そこで本日は、特許・意匠・商標とノウハウの違いをご紹介しながら、両者の切り分けがなぜ重要か、コカコーラの事例を交えてご紹介いたします。
コカコーラはなぜ特許を取らずノウハウ保有にこだわるのか?
知的財産には、特許・意匠・商標のように、特許庁に申請して登録を受けるものだけではなく、企業やその社員が独自に持っていて、社外に出さない「ノウハウ」というものもあります。
つまり、
- 特許・意匠・商標→特許庁に申請して登録を受ける知的財産
- ノウハウ→知的財産のうち企業が秘密裏に保有する経験・技術・人的ノウハウ
という違いがあるのです。
「ノウハウ」とすることで特許登録もされないまま、社内に製法を蓄積している企業の代表例にコカコーラがあります。
彼らは、なぜコーラの製法について特許を取らないと思いますか?
多くの企業では、「何でも特許で取ってしまえば、権利を持っているのだから問題ない」と考えられています。
しかし、特許を取ることにはデメリットもあるのです。
特許の申請を行う際は、その発明が第三者でも実施できる程度に、内容を公開しなければなりません。
何でもかんでも特許で出してしまうと、その内容が第三者に公開され、ライバル会社にとって格好の研究材料となってしまいます。
ひいては「この会社はこんな開発をしているのか、ならば私達はこうやってもっといいものを作ろう」という技術情報を、自ら漏洩してしまうことにもなりかねないのです。
これゆえ、コカコーラは自社製品の製法について、敢えて特許を取らず、ノウハウとして持つことを選択しているのです。
技術・アイデアの目利きと知的財産を管理する仕組みが重要
会社内で何か新しい技術やアイデアを生み出したとして、将来それを使いこなすためには、「これは特許として権利化しておくべきか、ノウハウとして門外不出にするか」をきちんと考え、決定していく必要があります。
要するに「技術・アイデアの目利き」です。
これができない会社は、知的財産に無駄な労力とコストをかけてしまい、他社に有益な情報を与えるだけとなり、自社の成長をかえって阻害することになります。
知的財産をノウハウとして管理する場合には、それをどのような体制でどういうルールで管理するかを決め、社内に浸透させて外部に漏れないような仕組作りも必要です。
あなたの会社では、ノウハウにするものと権利化するものの判断が、ちゃんと判断出来ていますか?
もし何でもかんでも、特許を取れば良いと思っていらっしゃったなら、今すぐ「技術・アイデアの目利き」を自社内で行えるよう対策を打つ必要があります。
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