文字を解読できない「失読症」だった落ちこぼれ生徒リチャード・ブランソンは、その後全世界で5万人以上の従業員を抱える、コングロマリットのリーダーとなっていきます。彼のビジネスで特徴的なのは、いつも誰かが抱いている不満を解消するために、ビジネスを始めるということです。3つの事例をご紹介します。
ブランソンのビジネスに共通する一つの特徴
1950年にイギリスで産声を上げた、文字を解読できない「失読症」の落ちこぼれ生徒が、後に世界を驚かせる偉大な起業家へ成長してくなど、誰が考えたでしょうか?
落ちこぼれ生徒とは、リチャード・ブランソン(以下、ブランソン)のことです。
ブランソンが率いるヴァージン・グループは、ヴァージン・レコード、ヴァージン・エア、サブプライム危機で一時国有化されたノーザン・ロックを含め、全世界22カ国で500社、延べ5万人以上の従業員を抱えるコングロマリットとなりました。
近年では、宇宙旅行事業を行うヴァージン・ギャラクティックを傘下に収め、ブランソンの事業領域は宇宙にまで広がりを見せています。
ブランソンが新たに事業を始める時には、いつも共通した特徴があります。
ビジネスを始める時はいつも、誰かが抱く(特に自ら)「不満を解消する」ことを、念頭においていることです。
ブランソンが、どのように不満からヒントを得て、ビジネスを成功させてきたか?3つの事例をご紹介したいと思います。
不満をヒントに成功した3つのビジネスとは?
1)発言の場がない若者の不満を解消した「スチューデント」
失読症ゆえに学業へ打ち込めず、学校をドロップアウトしたブランソンは、「スチューデント」という雑誌を創刊しました。
学生による学生のための雑誌という触れ込みで、若者文化の発信基地となるこの雑誌を、ブランソンは一躍全国紙へと成長させていきます。
当時のイギリス・ロンドンでは、スウィンギング・ロンドンという、斬新でモダンな若者発信の文化が育っていました。
日本に対しても、モデルのツィーギーに、ロックバンド・ビートルズなど、この当時のスウィンギング・ロンドン文化は、大きな影響を与えました。
一方で、ベトナム戦争の長期化や国内の深刻な景気悪化により、職を失った若者の間には、ドラッグ文化を始めとする退廃的な快楽主義が横行しはじめました。
とはいえ、彼らは単純に快楽主義に陥っていたわけではなく、社会に対する意見や不満を述べる場所も求めていました。
その不満に応えたのがブランソンだったのです。
それにしても、なぜ文字も満足に読めないブランソンが、雑誌を創刊しようと思ったのでしょうか?
理由は簡単です。彼自身も文字が読めないために、社会の公的な器である学校を退学せざるを得なかった、ドロップアウト組だったからです。
2)レコードの値段が法外だという不満を解消した「ヴァージン・レコード」
スチューデントの立ち上げに成功したブランソンは、次の冒険に移ります。
当時のロンドンには中古・新品のレコード店が数多く有りましたが、ほとんどの店舗が法外な価格でレコードを販売していました。
自分自身もレコードマニアだったブランソンは、このことに不満を持ち、レコードの通信販売会社ヴァージン・レコードを始めます。
おりしも当時、イギリスではレコードの再販売規制が緩和され、ディスカウントで販売できるようになったため、ヴァージン・レコードは消費者の指示を受けます。
ところがここで郵便ストライキが発生し、通信販売会社としてのヴァージン・レコードは頓挫しますが、貯まったお金を元手に、ブランソンは音源を作る側になっていきます。
セックス・ピストルズやボーイ・ジョージをはじめとして、今までにない「ヴァージン」なミュージシャンを輩出したことで、ヴァージン・レコードは世界に名だたるレコード会社へ成長します。
3)飛行機の中がつまらないという不満を解消した「ヴァージン・エア」
ヴァージン・レコードの成長とともに、活躍する舞台が世界へと広がっていく中で、ブランソンはある一つの不満を抱くようになりました。
それは、出張で長時間移動に利用する飛行機のサービスが、あまりにもつまらないということでした。
乗った瞬間に「凄く楽しい!」と感じるサービスを提供してくれる会社が、世の中に一つもない。ならば自分で作ってしまおうと考えて設立されたのが、ヴァージン・エアでした。
今ではどの航空会社のサービスとしても当たり前となっている、個人座席の画面設置を一番最初に始めたのは、ヴァージン・エアでした。
それに留まらず、ブランソンは飛行機内にバーカウンターを作ったり、マッサージサービスを実施したり、ついには飛行機の床がガラス張りとなっている飛行機まで作ってしまいます。
中古のボーイング747一機から始まったヴァージン・エアは、現在イギリス国内はもちろん、アメリカやオーストラリアを始めとする全世界に拠点を置く航空会社となりました。
不満の解消と解決策の提示は顧客の感動を生む
不満はそのままにしておけば、何も物事を好転させることはありません。
ブランソンは不満に対して常に、どのような解決策を見い出せば良いか、もっと言えばどうすれば不満を解消し、顧客の感動に繋げられるかを考え、事業運営を行ってきました。
もちろん全てが上手く行ったわけではありませんが、その多くは自らの不満を解決すると同時に、熱烈なヴァージンファンを生み出しました。
不満の解消は言葉を言い換えると究極の顧客中心主義であり、ブランドという見えない財産の源泉と言えるでしょう。
Photo credit: Gulltaggen via Visual Hunt / CC BY