「返報性の原理」とは、「相手からなにか借りたら、その借りを返さないと落ち着かない」という人の自然な気持ちのことです。ビジネスにおいて「ひと手間かける」ことは当座の本人にとって面倒くさく感じることもあるかもしれませんが、それほどコストをかけずに実行できる非常に効果的な行為です。日経BP社の読者へ寄せたアンケート依頼にその良い見本が現れていたのでご紹介します。
日経情報ストラテジーからアンケート依頼届く
先日、長年愛読している「日経情報ストラテジー」から読者アンケートの協力依頼の封書が届きました。最新号の内容に対する評価を聞く内容です。「面倒くさいなあ・・・」と思いつつも、回答者全員がもらえる図書カードが欲しくて早速回答し、返信用封筒に入れて投函しました。
私はマーケティングリサーチを専門としていますから、「アンケート」を企画・運営する案件もやっています。アンケートを実施する側としては、できるだけ多くの方に回答していただきたいと願っているわけですね。
ですから、アンケートの「回答率」を高める方法については常に考えています。ところが、自分が回答する立場になると、やはり「回答するのは面倒だなあ・・・」という気持ちになるのですから、我ながらげんきんなものだなと思います(笑)
アンケート依頼に手書き風の文章があった理由
さて、しばらくして日経情報ストラテジーから、今度は「督促はがき」が届きました。アンケート発送の1週間後くらいに「督促状」を送るのは、回答率を高める方法の一つとしてしばしば採用されます。もちろん、督促状の制作・郵送コストが追加で必要になります。
しかし、そもそも集計・分析に足るだけの回答数が集まらなかったら調査費用全体が無駄になります。その意味で、督促状送付はむやみにケチってはいけないコストと言えるでしょう。
日経情報ストラテジーの督促状に話を戻すと、今回はちょっと面白い工夫がしてありました。「拝啓」から始まるアンケート回答を改めてお願いする本文は活字で印刷された型どおりのもので従来どおりです。
面白い工夫というのは、「追伸」が手書きで書かれていたことです。実は、よく見ると1枚1枚手書きされたものではなく、手書きしたものをそのまま印刷したものであり、あくまで「手書き風」ですけどね。
手書き風の追伸が記載された、日経BP社からのアンケート督促はがき
さてこの手書き風の「追伸」、はたして回答率を高める効果があるんでしょうか?
はい、あります。断言できます。過去に行われた類似の実験で効果が検証されているのです。
日経情報ストラテジーの督促状の場合、本当の手書きであればさらに高い回答率が期待できたでしょうけど、「手書き風印刷」であったとしても、このはがきを受け取った人の「アンケート回答してあげようかな」という気持ちを多少とも高める効果があったのはおそらく間違いありません。
ポイントは、「ひと手間かけた感」です。通りいっぺん、型どおりの督促文では何も感じません。しかし、そこに「追伸文」があることで、「おやっ」と人の心を動かすことができる。そして、自分のためにここまでやってくれたのかという思いが、アンケートに回答するという行動に結びつきます。(ただし、本当の手書きではないため、この効果は多少とも低下していますけどね)
このように、「ひと手間かけた感」を相手に与えることで、こちらの期待する行動を相手から引き出す確率を高めることができる背景には、以前にもご紹介しましたが、説得の心理学でいう「返報性の原理」があります。
一手間加えるだけでビジネスは大きく変わる
「返報性の原理」とは、「相手からなにか借りたら、その借りを返さないと落ち着かない」という人の自然な気持ちのことです。
日経情報ストラテジーの督促状については、通常はない、手書きの追伸文を加えたことで、受け手にある種の「借り」ができた感を与えるわけです。
追伸文は、受け手が頼んでもいないことですが、それでも「借りができた感」を消すことはなかなかできないのです。だから、お返しにアンケート回答してあげなきゃ・・・という気持ちにつながるというわけです。
この「ひと手間かける」は、それほどコストをかけずに実行できますので、ビジネス、プライベートに関わらず、様々な販売や依頼、交渉場面において活用してみてください。意外に効果あることが実感できますよ。
なお、ひと手間かけることでアンケートの回答率が劇的に向上した実験内容については、改めてご紹介したいと思います。