1995年に発売された世界初のコンパクトデジタルカメラ、カシオ「QV-10」の画素数はなんと25万画素しかありませんでした。それから20年経ち、デジタルカメラの画素競争は「ユーザー不在」のまま進み、市場は縮小しつつあります。人の「認知限界」を無視した、‘ユーザー不在’の製品開発に陥れば最終的にユーザーは離れてしまいます。ユーザーとの対話を通じ、本当に必要とされる規格の開発を行う必要があるのです。
世界初・コンパクトデジカメの画素数は25万
1995年に発売されたカシオの「QV-10」のこと、覚えてらっしゃいますか?
世界で始めてのコンパクトデジタルカメラ。1.8型と小さいながらもカラー液晶モニターを備えていて、当時大きな話題を集めましたね。
当時の勤務先の先輩が早速購入し、会社で見せびらかしていたのを覚えています。ちなみに、カメラレンズを回転させて「自撮り」もできましたので、当時としては、実によく考えられた商品だったことがわかります。
QV-10は、同じくデビューしたばかりのWindows95のパソコンに簡単に取り込むことができたのも、注目を浴びた一つの理由でした。しかし、画素数はわずか25万。ディスプレイで見るとちょっとぼんやりした写真でしたし、とても印画紙にプリントするクオリティではありませんでした。
QV-10以降、メーカー各社がこぞってコンパクトデジタルカメラ市場になだれこみ、激しい画素競争が始まります。印画紙写真のL版と同じレベルであれば、人間の目なら160万画素あれば十分なのですが、1999年にこの壁は越えました。その後、2005年に1000万画素、2012年には最高で2000万画素を突破しています。
こうしたデジタルカメラの歴史について、カシオのQV事業部長であり、執行役員の中山仁氏は「ユーザー不在の競争が続いた」と振り返っています。
規格競争でハマる大きな落し穴:人の認知限界
近年は、ガラケー・スマートフォンにも1000万画素前後のカメラが搭載されており、カメラが趣味の方はさておき、一般使用であれば、スマホでのカメラ撮影で十分ですね。デジタルカメラ市場が縮小気味なのも当然でしょう。
さて、メーカー、とりわけ日本のメーカーは技術力が端的に示せる「規格競争」が大好きです。もっと高機能に、もっと小さく、もっと軽くと、「スペックシート(仕様表)」で数字で比較できる形で他社と競ってきました。
ただ、「規格競争」には大きな落とし穴があるのです。それは、人には「認知限界」があるということです。
‘認知’とは人が「外界のモノ」を
- 知覚し
- 認識し
- 判断する
ことを指します。
前述したように、人間の視力には限界があるため、デジカメの画素数がどんどん上がっていくと、ある一定上からはその違いを見分けることができなくなっていきます。
これが「認知限界」です。
また、人の手は、個人差はあれど一定の幅の中に収まる大きさですので、スマホの製品サイズを小さくするのはいいけれど、小さすぎると持ちにくくなります。重さも軽すぎるのも逆に違和感があり、使いにくさを感じる要因ともなりえます。
したがって、規格、すなわち寸法や重量といった数字レベルで競争すると、しばしば、「認知限界」を無視した、まさに‘ユーザー不在’の製品開発に陥ってしまうのです。
製品設計の最適化は消費者との対話から始まる
一方、アップルを始めとする欧米メーカーは、いたずらに規格競争することなく、自社の開発方針やデザイン思想に基づき、大胆に機能をカットしたり、目に見える規格ではなく、目に見えないブランドイメージに予算を振り分けることが得意です。
消費者は単純に、一番小さいから、軽いから、といったことだけ製品を選ぶわけではないからです。たとえば、先日ご紹介した「フルーガル(節約)イノベーション」とは、所得の低い消費者にも手の届く価格帯とするために、思い切って機能や品質を落とすことです。
これは規格競争とは逆行する開発方針ですね。そしてこの概念は少なくとも我々日本人にはなかなか理解しがたいものですが、海の向こうで10億人以上の人々に受け入れられているわけです。
「売れる商品づくり」は、マーケティングにおいて最大の課題だと言えますが、ユーザーとの対話を通じて、ユーザーが本当に重視するポイントはなんなのかを見極めて製品設計をすることが求められます。
さて、デジタルカメラの画素数は5年以内に1億画素を突破する見込み。そんなカメラで撮影した写真は、人の目には見えていなかったものも写っているのでしょうけど、そんなカメラを魅力に感じて買いたいと思いますか?