6月は音楽配信サービスに関するニュースが立て続けにありました。これらのニュースは、インターネット業界だけではなく、特定の業界、更には将来全ての業界がインターネットの潮流に左右される未来を指し示しています。時にこれまで育ててきた畑(事業)を自分の手で焼き払って、大胆に新たなサービスを構築する必要に我々は気がつく必要があります。
音楽定額配信サービスが立続けに発表される
6月は音楽配信サービスに関するニュースが立て続けにありました。
これらのニュースは、今後ビジネスを行う私達全てに影響する大きな出来事でした。
『米アップルが現地時間8日にサンフランシスコで開催した開発者向け会議の基調講演で注目を集めたのは、事前に噂のあった定額制の音楽聞き放題配信サービス「アップルミュージック」を正式発表したことだ。これまでCDへの依存度が高く、海外で主流となりつつある定額配信サービスに乗り遅れていた日本市場にも、アップルミュージックの登場をきっかけに本格的な「定額制音楽聞き放題」時代が到来しそうだ。』
『音楽放送大手のUSENはレコチョクと提携し、飲食店や美容室向けに定額制の音楽配信サービスを7月に始める。数百万曲から選んだ好きな楽曲をいつでもBGMとして再生できる。利用料は月3千円程度の見込みだ。CDやスマートフォン(スマホ)の音源を違法に利用するケースが多く、手軽に始められる仕組みで正規利用への切り替えを促す。』
『音楽配信サービスの英Spotifyは現地時間2015年6月10日、有料サービス会員が2000万人を突破したと発表した。無料サービスを含めたアクティブユーザーは7500万人以上にのぼる。有料会員が1000万人に達したのは、サービス立ち上げから5年半後の2014年5月末だった。「さらに1000万人増えるのにわずか1年しかかからなかった」と、同社は急成長を強調した。』
『スマートフォン(スマホ)向け無料対話アプリのLINE(東京・渋谷)が11日、定額制の音楽配信サービス「LINEミュージック」を始めた。楽曲を友人らと共有し、一緒に楽しめる。定額制音楽配信は米アップルも参入を表明しているが、対話アプリの「つながり」を前面に出して勝負する。料金は30日間聴き放題のプランで基本が1000円』
音楽定額配信の示す未来は全ての業界へ影響
ではこれらのニュースが、私達の未来にどのような影響を及ぼすか、以下ポイントを絞って考えてみましょう。
(1)スマートフォンのホーム画面における場所取り競争が激化する
アップル、ラインなどが提供する定額制の音楽配信サービスをするためには、スマートフォンにアプリをダウンロードして利用する必要が生じます。
既にスマートフォンユーザーのホーム画面には、フェイスブックやツイッターなど沢山のアプリがインストールされています。
このうちホーム画面の第一画面に残されるアプリは、ユーザーが最も頻繁に使うアプリです。
使われなくなるアプリはスワイプしないと表示されない第二画面、第三画面に移動することになります。
あたかもグーグル検索結果ページの1ページ目に表示されるための競争が思い起こされます。
ホーム画面争奪戦はすでに始まっています。
すでにインストールされているアプリを利用して集客するか、独自アプリを自ら開発して他のアプリに競争を挑まない限り、スマートフォンユーザーを新規客にすることは困難になります。
グーグルが2013年に発表したユーザー調査によると、スマートフォンユーザーに最も人気があるコンテンツの1つがエンターテイメント系のコンテンツだそうです。
そうした系統のコンテンツを提供していない企業は、そのセグメントから集客するためにアプリ広告を買う羽目になるか、高額な掲載料金を払わざるを得なくなるはずです。
(2)オンラインで音楽販売を行う企業の業績に悪影響を与える
もう一つの影響は、これまでオンラインで楽曲を1曲、1曲売ってきたiTunes Store等の楽曲販売サービスの売上が減少するか、将来的にはほとんどなくなってしまう可能性が生じていることです。
しかし、この現象はそうしたサービスがかつて街のCDショップから売上を奪い閉店に追い込んだ報いが来ているとも言えるはずです。
ビジネスの世界でも「自分がしたことはいつか自分に帰ってくる」という因果律があります。
しかし、その因果律に立ち向かう方法もあります。
自分が作ったビジネスのエコシステムを、「自分で破壊して新しいものを自ら創造する」という方法です。
街のCDショップから売上を奪い、iTunes Storeを創造したアップルが、自らの手でせっかく今繁盛しているiTunes Storeを破壊して、さらにその進化形であるアップルミュージックを始めるという姿勢には脱帽します。
こうした勢いがある限りアップルの栄華は未だ続くはずです。
(3)他の業界にもビジネスモデルの破壊がもたらされる
すでに音楽業界以外でも、こうした「取り放題」のビジネスは活況を呈しています。
その一つは映画・ドラマ見放題サービスです。
国内ではHulu(フル)等の映画・ドラマ見放題サービス、米国では圧倒的No1のシェアをとっているネットフリックス等がその代表例です。
これらのサービスにより破壊されつつあるのが、何十年もの間栄華を誇ってきたTV業界です。
何年も前に米国のケーブルTV業界のCEOが「TVは死んだ」と言っていました。しかし、そのケーブルTV業界ですらこうした映画・ドラマ見放題サービスにより破壊されつつあるのが実情です。
更に取り放題サービスの脅威にさらされている業界があります。
それは出版業界です。
すでに雑誌業界はインターネットによりその地位を奪われていますが、本の世界は日本において未だ健在です。
しかし米国ではアマゾンが既に、「取り放題」サービスを開始するための方向性を打ち出しています。
「米アマゾン・ドット・コムが近く自社の書籍端末「キンドル」向けに、書籍の定額読み放題サービスを始める準備をしていることが分かった。月額9.99ドル(約1千円)とし、60万冊をそろえる方向で調整しているもよう。音楽や動画で一般的になりつつある定額配信モデルが、最大手アマゾンの参入で書籍分野にも広がりそうだ。」
新しい種を蒔くには自ら焼き払う勇気が必要
このように音楽業界、映像業界、出版業界などは、デジタル化の波により、既に破壊と創造のプロセスの中にあります。
そのスピードはあまりにも早く目まぐるしい「激流」のようなモノです。
こうした激流は、これらの業界と全く関係の無い業界にもいずれ波及します。
コンピューターを使った事業を始めると最初は儲かる事がありますが、他人もコンピューターを使って同じような事をし始めるので、その競争優位性はいずれ失われます。
失われる前に次の新しい事業の種を自分の手で蒔いて、育まなくてはなりません。
最も苦痛なことは新しい事業の種をまくためには、時にこれまで育ててきた畑を、自分の手で焼き払わなくてはならない事もあるという点です。
しかしそれを躊躇してはいけません。
何故なら他人にそれをされるよりは、自分でする方が遥かにマシだからです。
過去の資産を守ることだけを考えていたら、その資産はよそからやってきた企業に奪われてしまいます。
今の事業がうまく言っている時ほどこの事を忘れてはなりません。