囲碁や将棋といったゲームの世界で人工知能(AI)が人間を打ち負かすなど、AIは人間の予想を上回る形で進化しており、ビジネスでも活躍を見せ始めています。たとえばAIは既に、万引きを未然に予防するために使われ、少額融資の融資審査(判断)でも活躍しています。ただし、これらAIの予測精度向上には、「行動データ」の収集が不可欠なため、今後私達の情報は更に丸裸となっていきます。
AIの進歩は人間の予想を上回り進化している
こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。
今回は、今最も関心が高いテーマと言える「人工知能(AI)」の驚くべき実用例をご紹介したいと思います。
今年5月、AI囲碁コンピュータプログラム「AlphaGO」が、囲碁の世界トップ棋士、柯潔との三番勝負で3勝を挙げ、もはや人間を上回る能力を獲得したとして引退を表明し、一方将棋の世界では、AI将棋プログラム、「PONANZA」が佐藤天彦叡王との電脳戦二番勝負で2勝を挙げました。
このように、AIの進歩は人間の予想を上回る進化を遂げており、ゲームの世界にとどまらず、様々な分野で実用化されつつあります。
AIを使うと万引きを未然に予防することが可能
たとえば、リアル店舗では頭痛の種となっている「万引き」をAIによって予測し、万引き被害を食い止めようとする防犯装置の開発が進んでいます。万引きを予測するためのデータは、店内に設置されたカメラやセンサーです。店内での客の行動をリアルタイムで捕捉し、AIが「万引きをする可能性が高い」と分析した場合、客に不快感を与えないような方法で注意を促すのです。
具体的には、客が書棚の本を取り出して、さりげなく自分のショルダーバッグに入れようとしたとき、AIは「万引きしようとしている」と判断して、天井のスピーカーから「いらっしゃいませ」という音声を出します。すると、本人は「見られてるのかな・・・」と感じて、万引きを思いとどまるというわけです。
多くの店舗では現在、万引き防止のために防犯員を巡回させていますが、たとえ万引きが減らせても、人件費がかかりますから、どちらにせよ利益率が低下する要因となっています。AIであれば、人を雇うよりもはるかに安いコストで導入できます。(「アースアイズ」という防犯装置の場合、本体価格8万5千円から、AI利用料は月2350円から)
AI活用の防犯装置は、リアル店舗を運営する企業にとって待望のマシンだと言えるでしょう。
少額融資の融資審査もAIが信用リスクを査定
さて、もう一つのAI応用事例は、オンラインで少額の融資が受けられる「オンライン・マイクロ・ローン」のサービスです。このサービスを開始したのは、メキシコのフィンテック企業、「クエスキ」。
メキシコでは、実に85%の人がクレジットカードを持っていません。また、60%の人が銀行口座さえ持っていないのです。このため、多くのメキシコ人は手軽に融資を受けることができません。
クエスキ社では、ここに消費者の不平・不満があると目を付け、オンラインでの簡単な審査で少額の融資を提供できるようにしたのです。クエスキ社のサービスは24時間356日利用可能。数分間で信用リスクを査定し、融資可否を決定します。
同社が、信用リスクを判断するために利用するデータが、サイト上のユーザーの行動情報なのです。融資を受けたい消費者がサイトにアクセスし、ローンを申し込むまでの動作や入力パターンを分析し、貸し倒れの可能性があるかを判断するのです。
具体的には、必要情報の入力が非常に速い場合、詐欺である可能性が高い、逆にあまりゆっくりと入力している人もリスクが高いと判断されるというのです。融資OKが出やすいのは、早からず遅からずちょうどよいスピードで入力する人であり、そんな人はちゃんと返済してくれる優良顧客の可能性が高いと判断されます。
サービスが便利になる一方で私達の行動は丸裸
今回ご紹介した万引き装置にしろ、オンライン・マイクロ・ローンのサービスにしろ、AIが主な分析対象とするのは、人の「行動データ」である点がポイントです。言葉・文字では簡単に嘘がつけても、実は行動にはその人の真実・本音が無意識に表出しており、そうそう隠すことができません。
そこで、AIの予測精度向上には、「行動データ」の収集が不可欠とういわけです。
AIと並んで最近のバズワードはIOT(Internet of Things:モノのインターネット)ですが、これって、要するにあらゆるものにセンサーが組み込まれており、私たちの利用情報などがリアルタイムでどんどん収集される仕組みなんですね。
AI時代に生きる私たちは、あらゆることが便利になっていくと同時に、私たちの行動が丸裸にされ、知らないところで様々に利用されてしまうことを忘れてはならないでしょう。
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