よっちゃん食品工業が、「ゲソ(下足)の極み」という商標を出願したとして話題になりました。今回のようなパロディ商標は審査の段階で4つのハードルが待ち受けており、これをクリアしたとしても、オリジナル商標を持つ会社との間でトラブルが起きる可能性をはらんでいます。パロディ商標はよく深慮した上で利用する必要があるでしょう。
よっちゃん食品が「ゲソ(下足)の極み」で商標出願
「カットよっちゃん」の商品で親しまれているよっちゃん食品工業が、「ゲソ(下足)の極み」(出願番号:商願2017-11995、出願日:平成29年2月6日)という商標を出願したとして話題になりました。
有名なバンド名「ゲスの極み乙女」からちなんだパロディ商標と受け取れるからです。
とはいうものの、同社関係者によれば、「この業界の人たちにとってイカの足はゲソと呼ぶのは染みついている話のため、バンド『ゲスの極み乙女。』と関連付けられることなど全く予想できなかったのではないか、」とコメントしているとのことで、パロディ商標であるという認識は社内ではなかったことを伺わせます。
コメント引用リンク:「ゲソ(下足)の極み」を商標出願 早くも「CMにベッキー使ったれよ」
パロディ商標の問題については、ここ最近数多く取り上げられています。
記憶に新しい事件として「フランク三浦」があります。また少し前ですが、「面白い恋人」もパロディ商標として話題を呼びました。
このようなパロディ商標については、商標登録を受ける場合にどのような問題があるのでしょうか。
商標登録の審査では、パロディ商標について大きく4つのハードルがあり、オリジナル商標の有名度合いや似ている度合いなどによって、このどれかに引っかかることが考えられます。
1つでも引っかかってしまえば商標登録を受けることはできません。
以下、4つのハードルを順に見ていきましょう。
「ゲソ(下足)の極み」商標出願〜立ちはだかる4つのハードル
1:オリジナル商標に似ていること
オリジナル商標が有名で、パロディ商標がオリジナル商標と取り違えるほど似ている場合は、商標登録を受けることができません。
ただし、この場合、オリジナル商標を使った商品と、パロディ商標を使った商品が同種の商品であることが条件となります。
この点、パロディ商標「ゲソの極み」を使う商品は「食品」ですが、オリジナル商標「ゲスの極み乙女」は食品には使われていないので、同種の商品とはいえないことから、このハードルはクリアできそうです。
2:オリジナル商標を所有する企業と間違えてしまうこと
オリジナル商標を使った商品とパロディ商標を使った商品が違うものであっても、オリジナル商標の有名レベルが高く、パロディ商標を使った商品を販売すると、あたかもオリジナル企業(オリジナル商標を所有する企業)の商品であるかのような誤解を与えるおそれがある場合は、商標登録を受けることができません。
商標登録の審査では、消費者の観点で「ゲソの極み」という名称で食品が販売されたときに、「ゲスの極み乙女」と関係のある企業が販売するものであると誤解を与えるかどうかで判断されます。
本件は、商標同士は必ずしも似ているとはいえないものの、オリジナル商標をイメージさせることから、ここが一番ポイントとなってくるのではないでしょうか。
3:オリジナル商標が著名でこれにただ乗りする不正な目的があること
オリジナル商標を使った商品とパロディ商標を使った商品が違うものであっても、オリジナル商標の有名レベルが高く、しかもこれにただ乗りする不正の目的がある場合は、商標登録を受けることができません。
この点、商標同士は必ずしも似ているとはいえないので、客観的な資料から不正の目的があるということは少々難しいかもしれません。
4:上の3つには当てはまらないが、商標登録をするには問題があること
特許庁としては最後の切り札が「公序良俗」です。
上の3つのハードルでは排除できないが、だからといって商標登録をしてしまうと、社会的に問題があるというような場合は、公序良俗に反するという理由が通知されます。
公序良俗ということですから、社会問題として見過ごせないレベルの事件である必要があるので、「ゲソの極み」で公序良俗を指摘するのは少々難しいかもしれませんが、可能性としては考えられます。
パロディ商標「似ているレベル」は3段階ある
パロディ商標とは、法律上明確な定義があるわけではないのですが、「他の商標を想起させ、想起させることが商品の販売等において何らかの意味をもっている商標」といわれています。
パロディ商標は、オリジナル商標に似せてるわけですが、この似ているレベルとしては、大きく次の3つのレベルがあります。
- (1)消費者が商品を取り違えてしまうほど似ている
- (2)何となく似ているが区別はつく、しかし関係企業の商品であると誤解する
- (3)何となく似ているが区別はつくし、関係企業の商品とも思わない
(1)(2)は商標登録を受けられず、(3)まで来れば商標登録を受けれる、という線引きで本件を見ていただくと分かりやすいでしょう。
使用前にオリジナル商標を持つ企業のスタンス把握が必至
さて、パロディ商標は、これを使う企業の主観はともかくとして、社会的には、話題に便乗して商品の販売促進を行う目的があると受け取られます。
このため、パロディ商標を使う場合に気を付けなければいけないのが、他社のオリジナル商標の話題に便乗していることを意識することです。
オリジナル企業のなかには、自社のオリジナル商標の話題によって得られる利益(経済的な利益、社会的評判、ブランドなど)は本来自社が受けるべきものであり、話題に便乗して他社が利益を上げることは不当であると考えている企業も少なくありません。
このように考えるオリジナル企業に対し、オリジナル商標と混同しそうな程似ているパロディ商標を使えばトラブルに巻き込まれます。
フランク三浦のようにトラブルによる話題が広告に転じることもありますが、通常、トラブルが生じることによって事業によい影響がもたらされることは少ないでしょう。
よって、パロディ商標を使用する場合は、オリジナル企業との間でトラブルに巻き込まれないかどうかをまず慎重に検討することが重要です。
また、社会的な評価にも検討を行う必要があります。
パロディ商標を使ったことが「模倣」と受け取られてしまえば非難を受け、逆にマイナスの効果をもたらすことになるからです。
他社の話題に便乗して利益を上げるという視点を忘れず、オリジナル企業や世間の視点に立って問題がないかどうかを事前にしっかりと検討しておきましょう。