町中をウィンドウショッピングしていると、そこかしこに、「あれって、ヴィトンに似てるよな?」「あの柄って、グッチに少し似てない?」と感じる、有名ブランドのデザインをオマージュ(敬意を払って真似る)した商品が販売されています。販売側は、「丸パクリではなく、オマージュだから」と考える場合が多いようですが、果たしてこれって許されるのでしょうか?
パクリじゃなくてオマージュなら許される?
直近「 フォーエバー21がグッチをパクリ提訴される」というニュースが報じられました。
参考リンク:「グッチ」が「フォーエバー21」を反訴 商標権侵害を再度主張
今回のニュースに限らず、有名ブランドの模倣問題のニュースは後をたちません。
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さて、世の中には「パクリ」ではないにしても、「これって大丈夫なのか?」と一部の人が感じるような、際どいオマージュが無数に見られます。
たとえば、有名ブランド・ルイヴィトンのモノグラムの色使いをオマージュしたような商品は、あちこちで売られていますよね。
見ているほうからすると、「あれって、ヴィトンをイメージしているよな?」「ヴィトンの柄をオマージュしているよね」と感じるような商品です。
作る側、販売する側にしてみれば、「ヴィトンが大好きでオマージュしちゃいました(*´ω`*)」程度に考えているのかもしれませんが、実際にはこれって大丈夫なのでしょうか?
商標登録の2つの役割
オマージュの是非について考えるにあたり、まずは商標登録の2つの役割についてご紹介します。
商標登録を取得すると、ブランド名やブランドマーク(ロゴやデザイン)が保護されるのはご存じかと思います。
この保護には大きく分けて2つの役割があります。
- 1:自社の商標を誰の文句もなく使い続けられること
- 2:他社が似た商標を使用することを禁止できること
の2つの役割です。
報道で商標侵害が報じられるケースでは、2の「他社が似た商標を使用することを禁止できること」に関する争いがクローズアップされることが殆どです。
皆さんもこのようなニュースが流れると、商標登録で保護されている他社の商標を真似してはいけないと、認識されることでしょう。
そして、今回のテーマであるオマージュやパロディの是非も、2番目の「他社が似た商標を使用することを禁止できること」に該当するか否かで判断が行われます。
商標は使えば使うほど保護の範囲が広がる
実は、商標登録制度において商標は、使えば使うほど保護されるように設計されています。
たとえば、これから使う予定の商標について、日本で未だ誰も使っていないものは、先に出願した企業が優先的に商標登録を取得することができます。
ただし、まだ使っていない商標や使い始めたばかりの商標は、保護の強さは皆同じです。
スタート時点では、保護の強さは変わらないわけです。
ところが商標は、使えば使うほど保護が強くなっていきます。
商標が有名になればなるほど、多くの消費者からよい評判を得て、これが企業の信用として蓄積していきます。
消費者が、企業に対する評判や信用を商標と紐付けて記憶するようになる結果、その商標はより強く、保護の対象の範囲が広がっていく設計になっているのです。
時間をかけて商標を育て、企業に対する評判や信用と紐付いて商標の認知が深まれば、保護の2番目の役割、「他社が似た商標を使用することを禁止する」を高いレベルで主張できるようになります。
信頼を勝ち取ったブランドは他社の似た商標の使用を排除できる
では、自社の商標が信頼を勝ち取って、高いレベルで「他社が似た商標を使用することを禁止できる」ようになると、他社に対してどんな措置を取ることができるのでしょうか?
似たような商標を他社に使われると、消費者が間違って他社の商品を買ってしまうことが起こります。その結果、どのようなことが起こるのでしょうか。
購入した商品がいつもの物と違う、質が悪い、などということになれば、ブランドを持つ本物の企業の信用が損なわれてしまいます。
また、商品の売り上げが他社に流出すれば、それは損害にもつながります。
商標が有名であればあるほど、模倣により多くの消費者が影響を受けるため、信用が損なわれる度合いも大きくなり、損害も大きくなります。
先述の通り、商標登録の制度は、「知名度が高くなるほど商標の保護を強くしましょう」ということにしていますから、「他社が似た商標を使用することを禁止できる状態」の保護を高いレベルで使えるようになった企業は、強気の対応に出ることが可能です。
有名な商標を手に入れた企業ほど、模倣はもちろんオマージュやパロディ行為を、より強く阻止することが可能になるのです。
遊び心のオマージュやパロディは本家に訴えられる要因でしかない
では、商標が似ているかどうかは、どのような基準で判断されるのでしょうか?
実際の判断は、その商標が有名かどうかでも異なってきます。
たとえば、ルイヴィトンがまだ無名の企業で、LとVからなるモノグラムを商標登録したばかりだと仮定します。
この場合、他社がルイヴィトンのモノグラムをイメージさせるようなデザイン、例えばPとVの組み合わせとか、LとVのモノグラムを含む幾何学模様が一部に使用された商品を販売しても、直ちに商標権の侵害とは判断されにくいでしょう。
様々な要素を検討し、最終的に商標が似ているかどうかを判断することになります。
これは、ルイヴィトンやモノグラムの商標がまだ有名ではなく、あまり世の中に認知されていない場合についてです。
しかし、実際のルイヴィトンは、有名な商標として世界中で広く認知されているので、事情は異なってきます。
有名な商標の場合、商標が似ているかどうかは問答無用。
有名な商標を含む商標は、原則としてその有名商標と似ていると判断する、ということになっているのです。
ルイヴィトンの例でいえば、「ルイヴィトン」という商標やLとVのモノグラムを含む商標は、他社の意図(模倣かオマージュかパロディーか)とは関係なく、似ていると判断されます。
オマージュか否かの意図は関係ありません。ルイヴィトンのモノグラムを含むデザインを採用することはNGなのです。
更にいえば、有名なブランドは、自社の商標をどのように商品や広告に表示するか、他社が似たような商標を使っていないかどうかなど、商標の管理を厳しく行っています。
従って、有名な商標をオマージュする行為は、その企業のブランド管理ポリシーに抵触する可能性がある上、通常よりも強い効力で保護されている商標なので、侵害と判断されるリスクが高く、軽々しく行うべき行為ではないといえます。
自分ではちょっとした遊び心のつもりでも、有名ブランドのオマージュやパロディの行為は、本家に訴えられるリスクが高く、大きな代償を支払わされる危険を含んでいることを、重々承知しておいてください。